第七十七話
「ふーん。裏切られて連れてこられたってわけか?」
そう皇帝が腕組みしながら頷く。
彼は意外と話しやすい人だった。
「ええ。私が悪いってものあるんですが」
「そりゃそうだ。パーティで優しくしてくる男なんか信用するお前が悪い」
皇帝は大きな口を開けて笑う。
子供のくせに妙に大人びたこと言って。
「……皇帝は御幾つなんですか?」
「余は今年で十五になる」
十五。私よりも三つも年下だ。
「全然私よりも子供じゃん。あ、いえ。……子供ですね」
「ふん。人をある時点で判断すると痛い目を見るぞ。人は成長するのだからな」
まあそりゃそうだけど。
「よしわかった。下がって良い」
下がって良いって。勝手に戻って良いんだろうか。
「下の人間にあったら『緑竜の間』に連れていけと余が申してたと伝えておけ」
私は頷くと階段を降りる。
途中ふと立ち止まった。上から声が聴こえる。
「俺はあいつが気に入ったぞ」
「お前の人好きは病気だよ。それで何人の貴族をたらしこんできた」
そう軍師と名乗った男の呆れた声が響く。
「裏切るおそれがある人間や俺にまだ心酔してない人間こそ手元に置くべきだ。人が本当に求めるのは名誉や金ではない。肯定感さ。自分が存在してる価値を感じさせてくれる人間にこそ人は集まる」
軍師の皮肉気な声が聴こえる。
「齢の割には老獪だな」
「こんな生まれだからな辛酸も裏切りも人の何倍も経験してる」
そう皇帝が小さく笑う声が聞えた。
「ヴァルディングスもあいつを気に入ったみたいだしな。一人でも信用のできる臣下を増やしたいのさ」
そう彼が言うと低く唸る竜の鳴き声が聴こえた。




