第七十二話
荷馬車に揺られながら荒れた道を行く。
汚い木板の上で横になっていると車輪が石を踏むたび振動が伝わって痛い。
眼を開けて暫く経ったが理解できたことは少なかった。
後ろに手を回されて縛られている。
手には石みたいなものを握らされていた。
猿ぐつわをされていて声も出ない。
口に巻かれた布のせいで呼吸が熱かった。
幌の中を見ると木箱や剣を数本入れた袋があった。紫色の髪の男の他に数人の男達がそれに腰掛けている。
「もう帝国領だからな。逃げ出そうとしても無駄だぞ」
そう紫の髪の男が言う。
「それにしても良く捕まえられたな」
他の男が言う。
「お前らとはここが違うからな」
紫の髪の男はこめかみに指をやる。
「しかしこんな状況の女を見るとへへっこう妙な気分になっちまうな」
そう一人の男が私の背を撫でる。身体がびくっと反応してしまった。
「止めろ」
「あっ? 話のわかんねえ奴だな。良いだろそれぐらい」
「そいつは皇帝への貢物だ。それにそんな顔立ちだ。……万が一ということもありえる」
私に触れた男は声を出す。
「なんだ後宮にでも入るってのか? 魔法使いごときが?」
「向こうには魔法使いを差別する慣習がないからな。それに色物を好むのは権力者の常だ。普通の女には飽きてるだろうからな」
彼はふぅっと溜め息を吐いた。
「それにお前らが『夢中』になってる間にその魔封石が手から離れてみろ。一瞬で焼き殺されるぞ」
彼らは怯えるように唾を飲んだ。
「ったく。どれだけ苦労して捕えた魔法使いだと思ってんだ」
そう呆れる様に紫の髪の男が言った。




