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第七十一話

夜の森を馬で駆ける。

知らない人の背に身体を預ける私。

堕ちたなと思った。


だけど背徳感って妙な気持ち良さがあるんだ。

不快なのに気持ち良いってどうかしてる。

こんな複雑な心を持ってる自分が本当に大嫌いになる。


「何処に行くの?」

「……屋敷の近くに綺麗な湖があるんだ」

彼はそれ以上何も言わずに馬を走らせる。


ジャンとの約束を破ってしまった。

屋敷から勝手に離れないって。

でも良いよね。ジャンだって私に秘密を作ってたんだから。


一回ぐらいの裏切りは許してよ。

私そんな強い人間じゃないんだよ。

そんな事を思うと知らない人の背中を目元から溢れる涙で濡らしてしまった。


暫くすると馬の蹄の音が緩くなっていく。嘶き声が夜の森に響く。

顔を上げると星と月を映した広大な湖が眼前に広がっていた。

その光景に言葉を失ってしまった。


「……綺麗」


彼は微笑み私に馬から降りるように言う。

「こんなの見てると人間の悩みなんてホントくだらなく思えるよな」

「……うん」


自然が作る美しさに比べたら私たちの人生なんて本当に儚いものだ。


「眼を瞑って」

そう彼は両方の手で頬に触れ私の髪をかきあげてゆく。

いつもなら不愉快に思えるような事でもこの景色の前なら全部受け入れてしまいそうだ。


私は彼の言葉に眼を瞑ってしまう。

ごめんねジャン。

どうせ私を好きになってくれないなら。


もう貴方を忘れさせてよ。


そう思った瞬間腹部に熱い痛みが走った。

「うぼぁっ」

私がその痛みの元を見ると握りしめられた拳があった。


紫色の髪の男が笑っている。

「お前ホント馬鹿な女だなあ」

彼が拳を離すと私は膝を着いた。


倒れた私の腹部にもう一発蹴りが入った。

私は悲鳴を上げる。誰もいない森で叫んでも誰も助けてくれない。

彼は私の前髪を掴んで顔を引き上げる。


「帝国に良い手土産ができたぜ。最上の魔法使いだ」

そう彼の顔が月夜に浮かぶ。

蛇みたいに歪んだ笑顔だった。

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