第六十八話
「で。で。その男ってのがひどいんですよお」
「ほーほー」
「口に無理やり指入れてきたり変な魔法式使わせたり」
紫色の髪の男の人は頷く。
「で? その魔法式を使うとどうなるの?」
「ひくっ。言えません!」
そう私は彼が持ってきた葡萄酒をなみなみグラスに注ぎながら言う。
「そもそも魔法式ってのは何だい?」
「魔法を使うための型の一つですよ」
「型?」
その貴族風の男は興味ありげに訪ねる。
「私達魔法使いってこう頭の中で式を組み立てて魔法を使うんです」
そう私は頭を差しながら言う。
「例えばですねえ」
私は枝を取り地面にさっさと円を描く。
それから円の内側に添う様にして魔法文字を書いていく。
そしてその文字の下側にさらに円を書く。
「なるほど魔法陣の外枠に書いてある文字が魔法式というわけか」
私は頷く。
「これでも基本的な形ですよ。ひっく。高度になればなるほどより複雑な魔法陣になってきます。外枠とは限りませんし陣が一つとも限りません。簡単に言っちゃえば魔法式ってのは魔法文字の組み合わせってことですね。一文字配置が違うだけで効果も全然変わってきますよ。うぷっ」
私は吐き気を抑えるためにまた葡萄酒を飲む。
ひどい悪循環だ。
「それを頭の中に叩きこんで使うんです。ですから記憶力勝負ですね。ちゃんとイメージできなきゃ弱い魔法になっちゃいます」
紫色の髪の男の口元が上がる。
「君の話は面白いな。ねえ。もっと聞かせてよ……」
そう彼は私の空になったグラスに葡萄酒を注いだ。




