第七話
私は木製の机の上で書き物をする。
メニョは私の服を繕っている。
「よし! 出来た」
彼女は服の埃を払い両手で皺をのばした。
「もう三カ月はもつよ」
メニョはそれを布団の上に置いた。
それから私の傍に寄る。
「お勉強?」
「ううん筆写の仕事。銀貨二枚もらえるの」
彼女は頷く。
「本を作ってるんだ」
「うん。一枚一枚間違えられないから腕が痺れちゃう」
私は羽ペンをインク瓶に入れた。
そのまま軋む椅子に背を預ける。
「字が綺麗な人だから出来るんだねー」
そう彼女は感心した様に私の字を見る。
でもメニョは見ても内容が解らないのだ。
文字が読めないから。
「もし良かったらさ。字教えてあげよっか」
彼女は首を横に振る。
「遠慮するよー。だって本って聖書か難しい本しかないもん」
まあそうだろうなと思った。
本はその製本の遅さからどうしても聖書か魔術書が優先されてしまう。
とても市民の人が好んで読むようなものじゃない。
「でもさいつか物語とかが本になったら良いな」
「物語?」
メニョは嬉しそうな顔で頷く。
「街に人形劇やサーカスが来るでしょ」
彼女は胸に手を置き感慨深そうに眼を閉じる。
「恋の話や冒険譚! 私いつも忘れないようにって胸に残そうとするの」
メニョは続ける。
「お話を忘れちゃった時は泣きそうになるわ」
私も微笑みながら頷く。
「いつか本に物語が書かれる日は来るかな」
「想像できないよ。でもそんな未来がいつかきたら良いね」
私はそう笑ってまた筆写を始めた。