第六十六話
「カーシャ!」
ジャンが廊下まで追いかけてきた。
履きなれない靴や服がわずらわしい。
普段の私ならもっと早く駆けるのに。
「落ち着けよ」
そう彼は息を切らしながら言う。
私は冷めた眼で彼を見る。
「まだ絶対にそうだと決まったわけじゃない」
彼は息を整えながら続ける。
「たった百人の情報しか集まってないんだぞ。それにもう6割近い魔法使いが戦死している。確かにその中で生き残った人間に女が多いのは事実だ。だがまだ仮説が証明された訳じゃない。真実なんてまだ誰にもわからないんだ」
私は一生懸命話す彼を見て皮肉気に笑った。
「でも身寄りのない魔法使いを集めてた……」
彼はその言葉に口をつぐんだ。
「やっと謎が解けたよ。どうして私だったのかって」
私は震える瞳で続ける。
「簡単に処分できるからでしょ。そうだよね。なんの取り柄もない私が選ばれるのおかしいもんね」
自嘲気味に笑ってみた。
涙も勝手に溢れてくる。でもそんなのはもうどうでも良い。
本当に傷ついたのはそんなことじゃないから。
「すごい壁を感じたんだ。結局利用されるだけの存在なんだって」
彼は意味がわからないといった様子で首を傾げた。
「……ジャンが一緒にいてくれるのが、守ってくれるのが凄い嬉しかった」
私は伏し目がちに続ける。
「でもそれがジャンの仕事なんだよね」
そう小さく呟いた。
「それなのに。あなたの行動一つ一つに勝手に舞い上がったり喜んだりして馬鹿みたいだよね」
下を見ると綺麗なスカートが見えた。着飾って喜んでたさっきの私を思い出してしまった。
「ホント馬鹿みたい……」
ジャンは黙っている。
「結局ジャンは騎士だし私は魔法使いなんだよね」
できるだけ感情を込めない様に言ってみた。
「こう線があるんだね私達」
そう頑張って声を出し続ける。
あれ、あれ、これから何て言いたかったんだっけ。
顔を見上げる。彼が真っ直ぐ私を見つめている。
私の心まで見透かされるみたいだ。
彼に見られているとまた胸が苦しくなった。
「愛した人と絶対に一緒になれない世界がつらいよ」
言った後で口を抑えてしまった。
何わけのわからない事言ってるんだ。
なんだ。結局ぐだぐだ話していても本音は単純じゃないか。
お前も同じじゃないか。
人の気持ちを考えずに気持ちを押し付ける人間と。
結局自分のことしか考えてないのは一緒じゃないか。
そんな言葉が私の暗闇から聞こえてくる。
言ってしまった。ジャンの眼を見るのが怖い。
彼の瞳は何も変わってなかった。ただ真っ直ぐ私だけを見つめていた。




