第六十五話
ジャンは将軍達と話している。
「どうだ魔法使いの調子は?」
「はっ。概ね良好であります」
いつかの白い髭の将軍は大きな口で笑う。
「くれぐれもうちの軍団からはあんなのは出さんでくれよ」
そうジャンの肩を叩く。
「はっ!」
あんなの。あんなのになっちゃうんだ。
「……ジャン」
私がそう話しかけると白髭の軍人は私に眼をやった。
「がははっ魔法使い。祝いの席までそんな地味なローブを着るんじゃない」
「しかし新しく支給されましたのでこれで出席せよとの意図かと……」
グランド将軍は笑って周りの護衛に指示を出す。
「ドレスを用意してやれ」
「はっ!」
そう周りの兵達が勝手に頷き私を別の部屋に案内する。
着替えたら妙に息苦しい。
「中々似会うじゃないか」
そう老軍人が赤い葡萄酒を飲みながら言う。いくらかもう酔っぱらってるんだ
「似合うかなジャン?」
そう彼に不安気に聞いてみた。
「ああ。綺麗だ」
そう彼は微笑んで言う。
その言葉に私も頬を赤く染めて喜んでしまう。
今が人生で一番最高の時かもしれない。
「がはは。どうせすぐ死んでしまうんだからそれぐらい贅沢させてやらんとな」
私は暫く沈黙してしまう。
「……すぐ戦死してしまうという意味ですか?」
「ん? なんだジャン説明してなかったのか」
グランド将軍は蟹の身を食べながら言う。
「あの異常な魔力の源は命だってな」
そう言った彼は蟹の爪の身をほじくり出すのに夢中だった。
「寿命を削って魔力に換えてるって教えてなかったのか?」
「……閣下。御言葉ですがそれは魔法使いの士気を低下させるため機密との事でした。それに私が知ったのは教会から手紙を……」
ジャンは私の顔色を伺いながらばつが悪そうに言葉を選ぶ。
「……それにまだ仮説の段階です」
彼が唾を飲み込んで続けるとグランド将軍は蟹の身を吹き出して笑う。
「もう決まりきったことじゃないか。年寄りはあの魔法式でまるで魔力が増幅されん。それに女の魔法使いばかりが戦果を上げてるのは他にどう説明がつくんだ? 女に生命力があるからだろう? それに薄々そうだと思ったからわざわざ身寄りのない魔法使いをかき集めたんじゃないか」
そう老軍人は大きな声で笑った。
私の指からグラス滑り落ちた。
赤い葡萄酒が絨毯に広がる。
「どうした魔法使い?」
そうその老軍人は赤ら顔で笑った。
「……同じだよ。ジャンも貴方達も」
彼らは私に視線をやる。
「結局利用したってところはあの子を犠牲にした人間と一緒だ」
「……カーシャ」
そうジャンが申し訳なそうな声を出し私に歩み寄ろうとする。
「近づかないでよ」
私は語気を強めそれからジャンに嘆願する。
「……お願いだからもう独りにさせて」
そう震える声で言って踵を返す。
会場から駆けてみると憧れだった服が私の歩みを遅くした。




