第六十一話
「戦勝パーティ?」
そう街を歩きながらジャンに訊く。
「そうだ司教の屋敷で今夜開かれる」
「私に参加しろと?」
「ああ」
「そんな気分じゃないよ」
そう枯葉が舞う街を歩きながら言う。
靴の先を見ながら言う。
「……魔法使いなんてお呼びじゃないんでしょ?」
「引きずるなよ」
「私がなってたかも知れないんだよね」
まだ下を見ながら歩く。煉瓦細工の道は夕陽で茜色に染まっていた。茶色の革靴を風に舞った枯葉がかすめていく。
「ただ一緒にいた騎士が違ってただけで」
「お前はお前だ。同じ思考になるとは限らない」
「戦争行ってやっと生き延びたと思ったら夜は兵士達の相手? 心が擦り減っちゃうよ」
彼は立ち止まる。
私もそれに合わせる様に止まる。
「いい加減にしろ。お前がそうだったわけじゃない」
秋の風が私の髪を撫でる。
「そうならない様に俺がお前を守ってやる」
不覚にも泣きそうになってしまう。
「絶対だよ」
「ああ絶対だ」
「……私を離さないでね」
そう彼とまた歩き出す。
茜色の夕陽に包まれた二人分の黒い影が伸びてゆく。
出来ない約束を彼とした。
ずっと人を守るなんてできっこないよ。
そんなのを信じるほど私は妄想家じゃない。
だけどなんでだろ。その嘘にひどく心が落ち着いてしまうんだ。




