第五十八話
青い閃光が煌めいた。
彼女の掌の直線上に氷で出来た鱗状のものが走る。
おそらく物凄い寒波だったんだ。証拠にそれが当たった壁にも広範囲に氷が広がっている。
「嫌な報告書が回ってきそうだぜ」
「魔法使いの軍事利用についてか? 精神が不安定なのは前から説明を受けてただろ」
そう二人は話す。
リリィと呼ばれた少女は頭を抱えてがたがた震えている。
「いくら精神が不安定だって言ったってな。ここまで心を傷つけられたら誰だっておかしくなっちまう。魔法使いだとかの問題じゃねぇだろ!」
そう彼が語るとジャンは黙る。
「たぶんあそこに転がってるクソ灰騎士野郎が彼女を使って『商売』をしたってことだろ?」
そうクルスさんは床に凍りついている灰騎士を指差す。
「おまけに当然救いの手をさしのべるべき聖職者までがそれに加担しやがった。本来信じられる人間に裏切られたんだぞ」
彼はジャンの意見を求める様に言う。
「だから?」
「同情の余地がある! それは神廷裁判でも有利に働く!」
クルスさんは強い口調で言う。
「俺は彼女を助けるぞ」
「無駄だな」
そうジャンが冷たく言う。
「何?」
「聖職者殺しは極刑だ。情状酌量が認められても罪は二段階しか下がらん」
彼は淡々と言う。
「どちらにせよ断頭台送りは免れられんよ」
クルスさんが彼の胸倉を掴む。
「お前いい加減にしろよ。いつからそんなお前になっちまったんだよ。昔のお前は……」
「初めから俺はこんな俺だよ。お前が知らなかっただけだろ? それに見ろ」
ジャンは涎を口から流し頭をかきむしっている彼女を指差す。
「もう精神が壊れかけてる人間をどう救うんだ」
彼はジャンを突き飛ばす。
「救ってみせるさ。俺は希望を諦めたりなんかしない」
そうクルスさんは剣を強く握り締め彼女へ向かって歩いていった。




