表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/242

第五十五話

クルスさんは死んだ。

誰もがそう思った。あまりに敵に近い位置での静止だったからだ。

しかし氷柱は伸びてこなかった。


時間が止まったみたいだ。

「うっく」

その魔法使いは小さな声を出して右手を振り上げる。


すると冷気を帯びた突風がクルスさんを吹き飛ばした。

彼女の青い髪も揺れる。

一瞬だが涙を浮かべてる様にも見えた。


顔を下げ息を整えた後の彼女を見たが涙はもう白い煙になっていた。

「どうやら無差別に殺してるって訳じゃなさそうだな。俺が剣を止めたから殺さなかったのか?」

そうクルスさんが起き上がりながら言う。


すると兵士たちが恐怖をかき消す様に叫ぶ。

「はっ。魔法使いごときはそういう風に俺たちの役に立つのがお似合いなんだよ」

「そうだ!」

「そもそも何かを感じる心がお前らにあるのか? 笑わせるな! いっぱしの人間らしい口を利きやがって」


彼女は寂しそうな顔をする。

暫く口を開けて辺りを見つめる。

その瞳には絶望の色が映っていた。


「そうだよね……」


兵士たちが三方から襲いかかる。

彼女の掌が青い光で輝く。魔力を蓄積してるんだ。

彼女は意を決した表情で両の掌を左右に勢いよく広げた。


瞬間こちらまで冷気が飛んできた。急激に空気が冷えて頬が痛い。

氷が教会の内壁を侵食していく。

建物が悲鳴を上げる様に軋んだ音を鳴らし続ける。


すごい魔力だ。

私たちの足元まで稲妻みたいに青い霜が走ってきた。

中心にいた兵士達は氷像と化していた。


彼女は先程の哀しい顔と違い恍惚の笑みを浮かべている。

「良いよね?」

そう彼女は髪をかきあげながら言う。


「誰も私に優しくしてくれなかったから。私も誰にも優しくしなくたって」

私たちが沈黙していると彼女は笑う。

その口から白い息がもれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ