第五十話
クルス・ランブリングとその赤毛の騎士は名乗った。
彼は箸を持ちながら話す。
「しっかしあの魔法式はすごいなあ」
ジャンは国家機密だぞと釘をさした。
「良いじゃねえか。ここにいるのはみんな身内だ」
それに、と彼は器に箸を置いて続ける。
「あんなの隠しきれるもんじゃねえよ」
ジャンはその言葉に何も答えなかった。
「話と違うじゃねえか。俺たちが見たのはあんなんじゃなかったぞ」
ジャンは腕組みをしながら黙っている。
アマリアさんは猫舌なのか異常に麺を食べるのが遅い。
「最高の魔法使いを集めた実験だったはずだ。魔法学院学長。終身名誉魔道師。その他もろもろな。だが誰もあんな威力は出せなかった」
クルスさんは顔の前で手を三角形に合わせ続ける。
「こんなに結果が違うとなるとあの噂が本当だって気もするぞ。だとしたら俺はこんな護衛は続けたくない」
私は意味がわからなくて頭にはてなが一杯だった。
「……クルス」
ジャンが静かな声で言った。
「護衛を続けるかどうかはお前が決めることじゃない。それにそれ以上喋るとお前を殺すことになるぞ」
そう言う彼の眼は戦争に出ていた時と同じ獣みたいな眼になっていた。
クルスさんは呆れた様な顔をして言う。
「俺はお前と違って教会の犬じゃないからな。灰騎士でもう充分なんだよ。黒騎士なんかになりたがるお前とは違うんだ」
彼も睨み返す。
「俺にも俺の正義がある。教会なんか関係無い。それにお前に俺が殺せると限った話でもあるまい?」
そうゆっくりと剣の柄に手をかける彼の眼は髪の色に似て燃えるような瞳だった。




