第四十九話
「なんだジャンじゃないかー」
その赤毛の騎士は嬉しそうに肘でぐりぐりと彼の胸板を押す。
ジャンの知り合いなんだ。なんだか彼は不愉快そうな顔をしている。
「なんかむすっとした顔の騎士がいると思ったんだよ」
そう赤毛の男は陽気そうな笑顔で言う。
「うぉっ良く見るとこの黒髪の子も美人。魔法使いはみんな美人なのか?」
彼は私に眼をやるとおもむろに口を開く。
「いやあ俺達って本当幸運だよな。カラティーヌのお導きって言うの? 本当むさい男なんかの護衛じゃなくて良かった。やっぱ俺って運命の女神に愛されてるなあ。うん。でもまあ想像の女神は抱けないからな。なあジャンお前女神って信じる? え? 信じない。いやあ俺は信じるよ。今眼の前にいるんだからな。ああ。君だけの騎士になりたいよ俺は」
彼が喋り終えると辺りに沈黙が広がる。
その場にいる誰もが何も話さなかった。鳥の鳴き声が聴こえる。
ジャンは無言でスープを飲み箸を置く。
「さ。いくぞカーシャ」
「ちょちょ待てよ」
早くサーカス小屋に帰れとか同じ教育を受けた仲間にそれはねえだろなんて言葉が二人の間で飛び交っている。
「また会えましたね」
そう黄金色の髪の女の人は言った。
「えっと確かアマリアさん」
「覚えていてくれたんですね。やっぱり買い物の趣味が合いますね」
そう彼女は微笑む。
「みんなが食べてると食べたくなりますよね」
そう手を合わせて笑う彼女からは『雷神』なんて凄味のある通り名はまるで想像がつかなかった。




