第四十三話
私の身体どうなったの。
全然動かないや。
痛いのに声も出ない。
寝床に入りながら乱れた呼吸をする。
そうじゃないと息も出来ないんだ。
視界まで白く霞んできた。
軍医とジャンが傍に座っているのがわかる。
「この症状はおそらく魔力欠乏症だな」
「魔力欠乏症?」
軍医が頷くのがわかった。
「魔法使いは身体機能や生理機能等の活動を魔力で補っている」
彼は続ける。
「その機能を維持する程度の魔力が体内から失われると、」
彼は一呼吸置く。
「このように魔力欠乏症を発症する」
それから彼は私の脈を取る。
「治るんですか?」
そうジャンが心配そうな声を出している。
軍医が頷いたのが手首に置かれてる指から伝わった。
「安心しなさい。貴族が魔法使いを過剰に酷使した時にも発症するぐらい悲しいかなよくある症例だよ」
彼は淡々と述べる。
「栄養のあるものを取って安静にしていれば自然と魔力も戻ってくる」
そう彼はジャンを落ち着かせる様に言ったが同時に驚いてる様でもあった。
「しかしここまでの症状は初めて見た」
彼は私の手首から手を離す。手がだらんと布団に転がったのがわかった。
「兵士たちが噂している黒い爆炎と何か関係があるのか?」
ジャンは何も答えなかった。
暫くした後、彼と軍医がテント際で話してるのが聞える。
「吐瀉物が喉に詰まるのだけ注意して。容体が悪化したらすぐに呼びに来なさい。白いテントだ」
「何から何まですみません」
そう彼の低い言葉が聞えた。
テントの入り口の布が閉まる音がする。
ジャンが私の枕元に座った。
彼は悲しそうな瞳で私の頭を撫でる。
「大丈夫だぞ。治るぞ。先生もそう仰ってた」
私は頑張って彼の方を見て唇を動かす。
『無事で良かった』
喋りたいのに全然声にならないや。
伝わったかな。無理だよね。
彼は無表情のまま顔を伏せ私の手を両手で握りしめる。
「馬鹿野郎。それは俺がお前に言いたかった台詞だぞ」
彼の大きな手が震える。
「……無事で良かった。お前が生きてて本当に良かった」
私の手に滴が落ちる。
男のくせに涙もろいなんて笑っちゃうな。
でもみんなには内緒にしといてあげるよ。
私しか知らない秘密であって欲しいから。
テントの角灯の火が揺らめいているのがわかった。




