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第三十九話

夕焼けに照らされた石の上に座り遺書を書く。

もし私が死んだら。違う。

戦死したら魔法都市にいる私の親友に……。


ペンを持つ手を止めた。

それから膝に顔をうずめる。

「明日が初陣か……」


少しだけ顔を上げると遺書が指から離れ風で飛んでしまった。

後ろから来たジャンが木に引っ掛かっているその紙を拾う。

「怖いのか?」


「そりゃね。怖くてたまらないよ」

彼は紙を私に返す。

「嫌なら書かなくても良いんだぞ」


私は首を横にふる。

「死んじゃうかもしれないから」

「殊勝な考え方だな」


そう彼は隣に座った。

私たちは夕焼けに染まった草原を暫く眺めていた。

これが最後の夕陽かもしれないんだ。


「……俺には妹がいたんだ」

「いた?」

私が訪ねると彼は頷く。


「小さな時に訳あって死んでしまった」

彼がどうしてそんな話をするのかわからなかった。

「何の楽しみも知らないままこの世を去ってしまったよ」


彼は足元にある草を撫でながら続ける。

「でも教皇なら失った命を甦らせることができるんだ」

ジャンはそう草原を見ながら呟く。


「俺だって闘うのは怖い。本当はいつも逃げ出したいと思ってる」

そう彼は自分の気持ちを吐露するように話す。

「克服なんてのはずっと出来ていない。生まれた時からずっと弱い自分のままだ」


彼は淡々と続ける。

「だから戦う時はいつも大切なものを胸に置いておくんだ」

「大切なもの?」


彼は頷く。

「戦う怖さより優先できる、自分にとって大切なものだ」

ジャンは私の瞳を見る。


「故郷に親友を残しているんだろう?」

私が頷くと風が吹いた。それが私の髪をなびかせて頬を叩く。

「そういうもののことだ」


彼はそう真剣な顔で言う。

「大切なものがあるからこそ人は戦える」

長々話してたけど要は励ましてくれたんだ。


不器用なやつ。だけどその優しさに思わず私は微笑んでしまった。

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