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第三十七話
彼はテントで怒る。
「お前はアホなのか馬鹿なのか?」
私は正座をしながら申し訳ない顔で頷く。
「言ってるそばから人の忠告を無駄にしやがって」
そう彼は姑かって言うぐらい小言を続ける。
「何かあったらどうすんだ!」
「ごめんなさい」
そう私が言うと彼は小さく溜め息を吐いた。
「……でも間に合って良かった」
彼は頭を掻きながら言う。
「もう俺から勝手に離れるな」
そう彼は子供を諭す様に私の頭をポンポンと叩く。
もう怒ってないよと合図されたみたいだった。
優しくされるとかえってつらい。
「もう寝ろよ」
そう彼は寝床に入る。
「ジャン」
「ん?」
彼は私に背を向けたまま返事をする。
「……助けてくれてありがとう」
彼は寝たまま右手を上げわかったよという仕草をした。




