第三十三話
ベッドに座っているとジャンは一枚の紙を手渡した。
「何ですかこれ?」
「覚えろ」
何でそんなに威圧的なんだろと思ったが黙って受け取る。
何やら数式が書いてあった。
「簡単な魔法式ですね」
私が手を伸ばして返すと彼は直ぐにそれを受け取る。
「覚えたか?」
「そんな短い魔法式なら私でも覚えられますよ。なんなら暗唱してみせます?」
私はそう言って眼をつむり口を開く。
すると彼に舌を掴まれた。
私は咳き込む。
「何するんですかっ!?」
「今お前が覚えた魔法式は国家機密だ。頭の中に入れて二度と口にするな」
そんなの先に言ってよと思った。むせながら息を整える。
「乱暴なの止めてくださいっ」
「すまなかった」
そう彼は簡単に謝る。
私は彼に背をむけて布団に包まる。
「説明しておくがそれがお前ら魔法使いを軍で使う理由の一つだ」
彼は続ける。
「その魔法式を組み込めばいくらか魔力を増幅できる」
別にそんなのは全然頭に入ってこなかった。家に帰りたい。メニョに会いたい。
「……何で私なんですか」
彼の方を見ず聞いてみる。
「私は魔学院でそんなに成績も良くありませんでした。体力のある男の子だって一杯いた。なのに何で私なんですか?」
沈黙が部屋の空気を占める。
「そのうち説明する。今日はもう寝ろ」
そう彼は私のベッドの隣にある蝋燭の側に寄った。
そして小さな声で呟く。
「怖がらせてすまなかった。荒んだ場所に長くいたせいか女の扱い方を知らんのだ」
本当にすまない。
そう彼の低い声が響いたあと蝋燭の火は消えた。
煙と一緒に蝋の匂いがこちらまで流れてきた。