第三十一話
荒れた道を馬がとぼとぼと歩く。
私は揺られながら口を開くか開かないかで迷う。
「えっと。あの……」
灰色の服の男は手綱を持ったまま聞く。
「ん? 何だ」
「これから何処へ向かうんですか」
彼は頷き答える。
「ウェルトミッド草原の手前に布陣してる軍に合流する」
私も頷く。
「まだまだ距離があるから今日は隣村のチェルシーで泊まろう」
そう彼は馬を歩かせる。
蹄の音が響く。
「あの今更なんですけど何とお呼びしたら良いんでしょうか」
灰色の服の男はそう訊く私の瞳を見る。
「ああ。自己紹介が遅れてすまなかったね灰騎士のジャンだ」
灰騎士?
初めて聞く言葉だ。
「えっと。じゃあジャンさん。早速お願いがあるんですけど良いですか?」
私は少しもじもじしながら言う。
「どうぞ」
「あの。この体勢ちょっと恥ずかしいんですが」
言ってて頬が熱くなった。
「なんというか後ろから抱かれてるというか」
そう馬の二人乗りに対して苦情を言ってみる。
仕方ないのはわかってる。私が馬に乗れないのがいけないんだ。
「あっ! 私歩きますね」
そう慌てて馬から降りる。
「おいおい。疲れるぞ」
「平気です! さあ行きましょう。村なんてすぐそこですよ!」
そう夕焼けの野道を意気揚々と歩きだす私。
暫くして草むらでえづく私。
「おえっ」
そう腹を押さえながら何度も唾を吐く。
「泣いたり吐いたり忙しい魔法使いだな」
彼は乗れと言って私を馬に引き上げる。
「それにしても魔法使いは体力が無いって本当なんだな」
そう呆れたような声を朦朧とした頭で聴く。
彼の胸板に身体を預ける。
こんな調子で旅を続けられるんだろうか。
幸先が悪いな。
悲観的になるとまたしゃっくりが出た。




