魔法学院編 おわり
灰色の服の男が用意した馬に乗る。
「またねカーシャ」
「うん」
元気でねと私は彼女に手を振る。
門がゆっくり開いていく。
メニョは最後まで笑顔のままだった。
草原に出ると辺りは夕陽に包まれていた。
振り返ると魔法都市ソルセルリーは茜色に染まっていた。
さようなら。私の育った街。
そう感傷に浸りながら男が手綱を取る馬に揺られる。
そのうち手持ち部沙汰になって皮袋を開く。
中には焼き菓子が五、六個入っていた。
他に小さな白い紙が一枚あった。
私はそれを不思議に思って取り出す。
夕陽の中それを広げた。
それを見るとまた心が揺れてしまった。
『かーしゃへ。がんばって手がみをかみました。かおをみていうとないてしまうとおもたからです。かーしゃといるときはいつもたのしかったです。やさしくてまもってくれておねえさんみたいに思ってました。あなたといるじかんはわたしのたからものでした。かーしゃはどんなすごいまほうつかいよりもずっとずっとわたしのこころをあたためてくれました。だめなわたしでもいっしょにいてくれてほんとうにありがとう。すごいうれしかったんだよ。だからぜったいぜったいしなないでください。あなたがかえってくるのをまってます。どんなことがあってもずっとあなたをだいすきな めにょより』
その手紙を持つ手が震える。
「ん? どうした。うわひどい字だな」
そう灰色の服の男が言う。
私は首を横に振る。
「そんなことないよ。すごい伝わったよ」
そう肩を震わせて言う。
メニョは私の前で泣くのを我慢していたんだ。
だってこの手紙すごい滲んでる。
雨でも降ったみたいに斑点がある。
彼女は最後まで私を心配させないように明るく振る舞ってくれたんだ。
「……メニョ」
そう私は手紙を握りしめ街に振り返る。
「絶対、絶対帰ってくるからっ!」
私は街に向かって叫ぶ。
「そしたらさ一緒にご飯食べたり!」
息継ぎをする。
「遊んだり! 好きな人を見つけようねっ!」
大きな声を出すと眼に涙が浮かんでしまう。
「約束だよっ! 絶対、絶対帰ってくるからっ!」
そう生まれ故郷に手を振る。
「元気でねーっ! メニョ!」
そう茜色の空に私の声が響く。
それは秋の風に乗って遠くまで飛ぶ。
私は馬に揺られている間いつまでも故郷の街を見つめていた。