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第三十話

私は何て言っていいかわからなくて暫く黙っていた。

「これあげる」

そうメニョが明るい声を出し革の袋を私に渡す。


「小麦粉固めて焼いたの。旅の間カーシャがお腹減らないようにって」

私はそれを受け取る。

「ちゃんと砂糖も入ってるんだよ。お小遣いためて買ったんだ」


革の袋をローブに入れる手が震える。

「誕生日先取りだね」

唇を噛んで我慢してたけどもう駄目だった。


「……何で怒んないのメニョ?」

「うん?」

「黙って行こうとしたんだよ」


そう彼女の顔を見ると肩が震える。

「ずっとずっと一緒にいた親友だったのに」

メニョは微笑む。


「理由があったんだよね。だけど会えて嬉しかったよ」

南の門と二分の一だったんだよと彼女は笑う。

もう唇をいくら噛んでも溢れる涙が止められなかった。


「……ごめんねメニョ」

私は彼女の肩に眼を押し付ける。

「だってだってメニョに会っちゃうと」


息を整える。

「本当の気持ちが抑えられなくなる」

私は眼の周りを拭く。それから震える手を握りしめた。


「戦争なんて行きたくないよっ!」

そう城門で叫ぶ。灰色の服の男は黙ってこちらを見ている。

「戦いたくなんかない。ずっとずっと毎日メニョと一緒にいたい」


また息が乱れてきてしまう。

「遊びに行ったり、美味しいもの食べたり、誰かを好きになったり」

もう手に入らない幸せばかりが頭に浮かぶ。


「当たり前の日々が欲しいよ! なのに。なんで、なんで私だけ!?」

そう息を切らして叫ぶと胸が苦しくなった。

メニョが私をそっと抱き寄せる。


私は子供みたいにずっと泣きじゃくっていた。

彼女はその小さな身体で私を支える。

小さなメニョ。弱虫だったメニョ。いつも守ってあげたメニョ。


でも本当は彼女の方がずっとずっと私より強い人間だったんだ。

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