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第二十九話
こんなもんかな。そう手についた埃を払う。
すっかり広くなった部屋を眺める。
蜘蛛さえ隠れ場所が無くなって逃げていった。
残ったベッドに腰かけた。
この場所で色んなことがあったな。
勉強したり友達たくさん入れて大家さんに怒られたり。
メニョと遊んだり……。
磨いた木の床を暫く眺める。
それから強く頭を振る。
もういかなくちゃ。
大家さんに別れを告げて通りに出る。
もうすっかり秋の空気だ。
煉瓦が敷き詰められた道には枯葉が舞っている。
汚れたマントを着て街を歩く。
魔法使いだと後ろ指をさされたり悪口も言われるけどもう気にしない。
約束の城門まで来た。
「早かったな」
そう灰色の服の男が馬を撫でながら言う。
「荷物が少ないもんで」
「そうか。別れは済ませたか」
私は少し言葉に詰まった。暫く黙った後、唇を噛んで頷いた。
「本当か。俺にはそう見えないがな」
そう彼は馬小屋の方を指差す。
見慣れた黄金色の髪。白い肌。
彼女は馬小屋の柱に背を預けてそこに立っていた。
「メニョ……」
私は思わず眼を伏せる。身体も震えてしまう。
彼女は凛とした表情で私の側に歩み寄る。