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第二十八話

学園の中庭で白いテーブルクロスを敷いた円形のテーブルが並ぶ。

芝生の中央には長方形の長机も設置されていた。

ローストした肉やサラダ、チーズ。葡萄酒等がところ狭しと置いてある。


今日だけは私達も正装して帽子もかぶる。

「諸君らは立派な魔法使い、立派な魔法使いになっでえ」

魔学院のいつも怒っていた先生が壇に立ち涙ぐみながら挨拶をする。


「先生が泣いてどうすんだよー」

「いや俺はむしろポイントアップだな」

「何のポイントだよ。それに卒業式で好感度上がってもなあ」


私の机の生徒達は笑う。

だけどそう言いながらもその子達も少し眼が潤んでいた。

最後に学長の挨拶が終わると立食パーティが始まった。


「おい。いこうぜ!」

そう男子生徒たちは肉に殺到する。

「食え食え! 今日だけは一杯食え!」


そう熱苦しい先生が涙を拭きながら生徒の背を叩いていく。

私はひっそりとサラダと葡萄酒を取りに行った。

どうもこう人が大勢集まる式は苦手だ。


でも遠くから楽しそうにしているみんなを眺めているとなんだか自分も幸せな気分になる。


「ニーナ! 俺と結婚してくれ」

そう眼鏡をかけた魔法使いが膝をついて求婚していた。

生徒達がおおっと歓声を上げる。


「初めて会った時からずっと好きだった。確かに今の俺には何にも無いかもしれない。だけど、」

彼はその女性の魔法使いの手を持ちながら頬を赤く染めて語る。

「だけど絶対君を幸せにしてみせる。約束する!」


そう大きな声で彼は愛を誓う。それから花束が差し出された。

言葉は聴こえなかったが女性の魔法使いの首が横に振られたのは見えた。

花束を持つ手はゆっくり下がっていく。最後には地面に着いてしまった。


女性の魔法使いは踵を返してその場を去った。

眼鏡の子は涙を流しながら眼の下を拳で擦っている。

生徒たちが駆け寄る。彼の肩に腕を回し明るい調子で話す。


「長い人生そんなこともあるさ。楽しい事ばっかりじゃない」

「そうそう今日は最後まで付き合うぜ。とことん飲もう」

「悲しい時に一緒に悲しんでくれる奴がいる。それだけで人生は悪いもんじゃないだろう?」


そう彼らは賑やかな調子で眼鏡の子を元気づける。

私は独り隅の空樽に腰掛ける。

空を見上げると青い空が広がっていた。


「人生悪いもんじゃないか」

そう私は独りで呟やく。ふと持った葡萄酒が眼に入った。

私はグラスを指で弾く。澄んだ音が鳴った。一人で乾杯をする。


「卒業おめでとう私」

そう青空の下で葡萄酒を飲んでみる。ちょっと大人になった味がした。

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