第二十七話
メニョが文字を連ねるとインクが紙に染みていった。
彼女は私の部屋で頑張って字を覚えようとする。
「うん。上手上手」
彼女は疲れたと椅子に背を預けて息を吐く。
紙の上にはみみずが這ったような黒い字が踊っていた。
「どーしたの急に。字を覚えようなんてさ」
メニョは黄金色の髪を撫でながら微笑む。
「ちょっと教養でも身につけようと思って」
「ふーん」
私は口を細めて頷く。まあ勉強熱心なのは良いことだ。
「お茶でも淹れるよ」
台所に行って湯を沸かす。
「この前は怖い思いさせてごめんね」
そう彼女はまた字を書きながら言う。
「この前って?」
「教会でのこと」
私はあーと頷く。
「別にメニョのせいじゃないでしょ」
そうお茶を淹れてるとペンを走らせる音だけが聴こえる。
「カーシャはいつも優しいね」
私は棚から乾燥した茶葉を取り出す。
「どうしたの急に」
「私が苛められてもさ。いつも守ってくれた」
台所からは机に座ってる彼女の表情は見えなかった。
「私に両親がいないことも一回も馬鹿にしなかったよね」
「どーしたのさ。急に褒められると恥ずかしいよ」
「こんな駄目な私とずっと友達でいてくれたこと凄い嬉しかったんだよ」
私は茶を淹れる手を止めた。それからメニョの側に寄る。
「……メニョ」
彼女は大粒の涙を流していた。ただでさえ歪んだ字がさらに滲んで読めなくなっている。
「カーシャ私に隠し事してるよね」
その顔を見ると胸が痛んだ。
「戦争に行くんだよね?」
そう彼女はえずきながら私に訊ねる。
私は黙ってメニョの震える手に私の手を重ねた。
それから彼女の瞳を見て小さく頷いた。