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第二百三十五話

頬を叩かれる。

眼を開く。口もだらしなく開けてしまう。

声も出ない。


「カーシャ! カーシャ!」

私の好きな人の声。

だから起きれたのかも。


でも、また意識が飛びそうだ。

「教皇を倒したんだな」

そう彼が私の身体を抱き起す。


教皇?

ああカーマインのことか。

倒せたのか私? そう眼を開くと半分にえぐられたバルコニーが見えた。


「お前の魔法のおかけだ。誰もが教皇が死んだと認識するには充分な魔法の光だったよ! おかげでほとんどの兵が戦闘を停止した」

そうなんだ。


『私、役に立ったかな?』

そう動いてるかどうかわからないけど唇を動かした。

もちろん声は出てなかった。伝わったかな?


彼は瞳を震わせる。

「ああもちろんだ。お前がこの戦争を終結させたんだ。お前が世界を変えたんだよ。カーシャ!」


そう興奮気味に語られても実感は湧かない。

でも胸に暖かい気持ちを感じた。

『良かった』


本当にそれだけだった。もう難しいことは何も考えたくない。

もう休ませてよ。眠いんだ。

好きな人に抱きしめられて死ぬなら悪くないかな。


「おい。おい! だめだ死ぬなカーシャ! お前の幸せはこれからなんだ。……絶対に死なせない。もう二度と大切な人間を死なせるものか」


そう彼は私を背中におぶる。大聖堂が震えていた。

私の魔法のせいか。それとも地下組織の人間が下で何かしたのか。

理由はわからないけど崩れそうな気配を感じた。


「約束しただろ親友に! 『絶対に帰るって』」

ああそんなこともしたっけな。

メニョ……。


「帽子屋を開くんだろ! まだ夢を叶えてないだろ!

うん。夢は叶えたい。

私の故郷にも帰りたい。


「それに俺の返事も聞いてないだろ!」

聞いてない。聞きたい。

「……教えて。最期だから。嘘でも良いよ。……優しい言葉を言って」


ジャンは走る。

「馬鹿野郎!」

懐かしい叱咤の声。


「大切な言葉なんだぞ! 嘘で良いわけないだろ! 生きて! 俺の本当の声を聴け!」

そう彼は階段をかけ降りる。


その言葉に途切れそうな意識で泣き笑いしてしまう。

「やっと真実の声が聴けるんだね。その希望だけで生きてけそう。ああ」

そう彼を抱きしめながら彼の背を濡らす。


「希望って素晴らしいね」

そう意識を失いそうな頭で言う。

「ああ。今までの全部が絶望に包まれてもたった一つの光が全てを素晴らしいものに思わせてくれる。それが希望だ。光なんだ」


彼は急いで階段を降りる。

その振動が心地良い。彼と触れ合える今が幸せだ。

「ジャン……」


「なんだ?」

彼は急いで走りながら訊く。

「やっぱりジャンは最後まで優しかったよ。こんなに誰かの優しさで心が暖かくなると思わなかった」


そう彼の背中に頬を預ける。

「私が『世界を変えた』って言ってくれたけど、貴方も『私の世界』を変えてくれたんだよ。本当だよ。貴方が持ってる……」


私は涙を流す。

「貴方のたった一つの心で」

本当にそう思った。


涙が止まらなかった。

大聖堂が崩れていくのがわかる。

私の意識も薄れていった。


「駄目だ。死んじゃ駄目だカーシャ! 俺はお前を……」

そこまで聞けばわかるよ。本当の気持ちって伝わるんだ。

ありがとうジャン。本当に嬉しかった。


もう眼を瞑っても良いかな。幸せな時に死にたいよ。

そう崩れていく大聖堂の音を聴きながら瞳を閉じた。

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