第二百三十四話
彼は信じられないという眼で私を見つめる。
私も自分が立ち上がれるのが不思議だった。
今までで一番強い紫の稲妻だ。
その閃光だけでもう大聖堂の床が壊れていく。
もう私はその魔力に傷みすら感じない。
これが最後なんだ。この瞬間に全てを懸ける。
「や、止めろ。そうだ世界を一緒に統治しよう。もちろん不老不死になって」
また聴きなれたその場しのぎの嘘。
もう騙されない。
私は血を飲む。吐き出さないため。隙を見せないため。
「不老不死なんて興味ありません。限られてるから、儚いものだから私は命を大切にしようと思えるんです」
私は掌を合わせる紫の雷を合わせた。その魔力の威力に身体が震える。
歯も震えてきた。
彼は私の様子を見てたじろぐ。
「や、止めてくれ。俺を、俺を……」
「絶望を前にして諦めるとか、優しさを捨てて生きていくとか、誰かを犠牲にして自分だけが幸せになる世界とか……」
私はまた血が混じった唾を飲む。
「そんなのは、」
リリィさん、ルシエさん、先生、クルスさん、アマリアさん、メニョ。
そしてジャン……。
私に、私に勇気をください。
「そんなのは、」
そう唇を噛んだ後叫ぶ。
「そんなのは知らないっ!!」
涙を流しいつかの様に唇を動かす。
白の魔法使いが私の顔に手を伸ばすのがゆっくりと見えた。
「や、止めろ!!」
私は唇をゆっくりと開く。
これが最後の私の最後の魔法だ。
「イクスプロジオン!!!」
そう掌を前に出し震える声で魔法を唱える。
白い世界が眼の前に広がった。
続いて爆風がいつかの様に前髪を撫でる。
白の魔法使いがその光の中に消えていく。
私もその光に包まれていく。
私のできることはしたんだ。
そう安心して眩しい光に眼を瞑る。
きっと大聖堂の頂上を遠くから見れば美しい光で灯っているだろうな。
この戦争を終わらせる光みたいに映る筈だ。
みんな、私やったよ。
弱虫だけど頑張ったよ。
私は死んじゃうけど褒めてくれると嬉しいな。
良いよね。せめて最期くらい。
愛してもらっても。
そう笑顔で微笑んでいると私の身体も完全にその白い光に包まれた。
さようなら。
みんな。
この世界。
大好きだったよ。
そう涙を浮かべると白い光が完全に私の身体を覆った。




