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第二百三十二話

「死ぬ気か? お前そんな魔力を蓄積したら……」

そう白の魔法使いが震えた瞳で口を開く。

「生きよう。生きようぜ。二人して死ぬことは無いだろ?」


私は首を横に振る。

「馬鹿な女だ。俺だってお前の魔法が無効化できないと決まったわけじゃない。ただ命を賭ける様な博打が嫌いなだけだ。かえって腹がすわったよ」


そう彼は身構え掌を前に出した。

まずいことに傷みで体勢を崩してしまった。

「あぐっ」


膝もついてしまう。でもすぐ立ち上がるんだ。

その隙に彼は跳びかかろうとしたがその足を止めた。

慎重な男なんだ。代わりに笑みをうかべた。


「……やっぱりな。お前じゃ無理なんだよ。三流魔法使いが。悪いことは言わない諦めろ。楽になれるぞ。俺が造った世界でずうっと迫害されてきたんだもんなあ?」

彼は自分が優勢になると饒舌になる性格の男みたいだ。


「負け癖だって沁みついてるだろ? 何をやっても上手くいかない? そうだろ?」

うるさい奴だ。黙れ。黙れ。

「最後にいいこと教えてやろうか?」


勝ってに喋ってろ。その分魔力を蓄積してやるから。

「魔法使いは精神と体力ともに人間に劣ってるって知ってるよな?」


そんなの当たり前だ。

子供の頃から言い聞かせられてきた。

魔法使いなら誰だって知ってることだ


「あれも嘘なんだよ」


私の瞳が大きくなる。一瞬隙を見せてしまった。

彼はその隙は見逃さなかった。

蹴りが私の腹に入った。


「うぶ。あぁああ!」


そうお腹を抱えてわけのわからない声を出す。

涙さえ反射的に流れる。

最後の線が切れてしまった。身体を支えていた最後の線が。


そう意味の解らない声と顔を浮かべる私を彼は追撃する。

胸に拳。それからもう一つ。もう何発身体に打撃を入れられたかわからない。蓄えた魔力も少しずつ散っていく。あぁ私の最後の魔力……。


「考えたらわかるだろうがぁっ!」

彼は倒れた私の腕を踏み抜く。

「うぅっ!」


折れた。腕も折れた。肋骨も。

最低だ。肝心な所で油断した。

詰めが甘いんだ私。


くそっ。くそっ。涙が止まらなかった。

現実なんてこんなもんか。

弱い人間が土壇場で強くなるなんてありっこない。


私が負けるほうが妥当な所なんだ。何百年も経験を積んできた人間と十年ちょっと逃げ続けてきた人生を送ってきた私。どちらが強いか明白だ。その差が明暗を分けたのかな。


言い訳ばかり頭に浮かぶ。


「なんで同じ魔法を使える神官が大司教が恰幅の良い人間だとか考えなかったのか? 実社会でなんなく過ごせてるのを疑問に思わなかったのか? ははっ揃いも揃って馬鹿な奴らだぜ! お前の味方でもない他人の嘘を信じて」


彼は金色の髪をかき上げる。

「自分の可能性を自分で殺してきたんだからよ! そのまま死ぬのがお似合いだぜ!」


彼の高笑いが赤い空の大聖堂に響く。

私は紫の光が掌から消えていくのを虚ろな眼で眺めていた。

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