第二百二十九話
「兄の生き方は間違ってたんだよ」
なるほど戒めというのはそういうことか。
痛む肋骨を押さえる。
「お兄さんの生き方を否定してるんですね?」
「そうだよ。今ならはっきり断言できる。優しさなんて無意味だってね。それを忘れないために黒の魔法使いを迫害してるってわけさ」
口から血も出てきた。
それでも。
それでも黙ってるわけにはいかない。
「ふざけるな」
私の言葉にカーマインはきょとんとした顔をする。
「お前には黒の魔法使いが伝えたいことがわからなかったのか? 命をかけて伝えようとしたことが解らなかったのか?」
お腹が痛い。だけど私は自分が思った事を口にするのを止めないぞ。
「お兄さんは命を懸けてお前に人を信じる大切さを教えようとしたんだぞ! 確かに人の心には醜い部分もある! 絶望するような人間だっている!」
大きな声を出すと痛みで泣きそうだ。
「だけど絶対にそれだけじゃない! 美しい心だってある! 優しい人だっている! それなのに勝手に決めつけて。人間に絶望して! 私も弱虫だけど。お前はもっと弱虫だ!」
私は掌を前に出す。
「私は。私は絶対に人間に絶望したりなんかしない!」
紫の雷がほとばしる。その閃光が彼の足元を切り裂いた。
それを見て彼は後ろに下がる。
ん? 何で下がったんだ?
かき消せば良かったのに。
その様子で一つの仮説が頭に浮かんだ。
私は両方の手を高く掲げる。
紫の光が辺りに飛び交う。
魔力で身体ががたがた震える。
その様子にカーマインの顔色が変わる。
やっぱり。血が流れる口元で微笑む。
「あなたの能力は……」
私は手を空に高く掲げながら。
「魔力を完全に無効化できるわけじゃないんですね?」
その言葉に彼の顔は完全に動揺した色を見せた。




