第二百二十六話
首を掴まれながら頑張って声を出そうと思った。
大聖堂の上空に火の粉が飛んでいる。
「お兄さんのためにこの世界に復讐してるの?」
私の言葉に白の魔法使いの握力が弱くなる。
その隙を逃さなかった。
直ぐ空いた首の隙間に指を入れ彼の腹に蹴りを入れた。
「ぬぐっ」
彼が後方に飛ぶ。
私を離すまいとした彼の爪で引っ掛かれる。
だけど掴んでいた腕は外せた。
首から血が流れてるのがわかる。
乙女の身体をこんなに傷つけやがって。
ジャン、後で給料弾んでもらうぞ。
そう息を整えながら教皇、いやカーマインを睨む。
「心を読んだのか? ……魔法式の副作用か?」
知らないよ。そんなこと。
むしろ竜と心が繋がった影響が大きい気がするけど。
感覚的にはあれに近い。
彼は興味深そうに私を見つめた後、口を開く。
「……復讐なんかじゃないさ」
彼は笑う。
「俺のしていることは兄の生き方の否定だ」
私は息を乱しながら彼の言葉を聴く。
「優しさなんて無意味なんだよ」
彼の飛んでくる拳を後方に跳びながら避ける。
また魔法を試してみる。
それでも簡単に掌から消える。
「だから言ってるだろ? 俺に魔法は効かないって」
空に接する石造りの手すりに追いつめられた。
腕で顔を守るけど彼の拳でその防御も崩れていく。
普通女を殴る?
でもこの人にそんな期待をしても無駄なんだ。
女ですら平気で殺せるような人なんだから。
誰か助けて。
最後まで人任せだから私この男に勝てないのかな。
甘えてる証拠に彼の蹴りが私の肋骨に決まった。
「あっ」
これは骨が折れたな。間違いない。
「うぅ」
そう身体を抱きしめて俯いてると私の背中に横に回ったカーマインのひじ打ちが落ちた。
ああ。もう無理だよ。
そう思っちゃった。
石畳に身体も預けてしまった。
だって私そんなに強くないもん。
だから負けたって良いんだもん。
代わりに誰かがやってくれるもん。
初めから私に期待なんかしないでよね。
充分やったって褒めてよ。
だって私魔法学院の劣等生だし。
もともと弱虫だし。
良いよね。
そんな用意した言い訳をたくさん胸の中で呟く。
そんな自分にも慣れてる。駄目な私に慣れてる。
なのに。なんでだろ。
なんで悔しさで泣いてしまうんだ。
頑張れない自分に泣いてしまうんだ。
もうちょっとだけ、もうちょっとだけ頑張れよ私。
そう今までの中で一番、唇を強く噛んで立ち上がった。




