第二百二十四話
「これはどうしたことですか?」
村人達の声が洞窟内に響く。
殺気立ってるのがその声の調子からわかった。
「ここは白の魔法使いの洞窟だった筈」
「なのにこの有様は……」
そう村娘の捜索に来た村人達は言葉を失う。
黒の魔法使いの小さい声が響く。
「……たんです」
「え?」
「弟の名声に嫉妬したんです」
その言葉に村人達はざわめく。
黒の魔法使いはつづける。
「許せなかった……。弟のくせに。兄を差し置いて幸せになるのが」
そこまで言い終わらないうちに石つぶてが彼のこめかみに当たった。
「最低な人間だな! 貴様は!」
そう村人が叫んだ。
「自分のことしか考えられない屑の中の屑だ!」
「そうだ! 俺の嫁さんは白法で助けてもらったんだぞ」
「それを。こいつめ! 自分のことしか考えないで」
また石つぶてが彼に当たる。
血が額から血が流れた。
「……そうです。私は最低な人間です」
興奮した村人は持っているものを投げつける。
松明や鍬、石、それが黒の魔法使いを傷つけていく。
「弟さんと比べてお前は正真正銘の屑だ! お前が代わりに死ねば良かったんだ!」
村人達の賛同の声が響く。
「そうだ! そうだ!」
「黒法なんかいらない! なんだ火を起こせるぐらい。肉を冷やせるぐらい!」
「おお。そうだ! 自分たちの手でできるさ! お前なんかいらないぞ!」
そう彼の腹に木の棒が叩きこまれる。
「ぐっ」
黒の魔法使いは膝をつく。
その勢いで村人達は彼を囲み木の棒や足で無抵抗な彼を痛めつける。
『止めろ 止めろ 止めろ!』
白の魔法使いの声が私の胸に響いてくる。
だけど彼は雷撃魔法で動けないんだ。
「前々からこいつは怪しいと思ったんだ!」
そういつも黒の魔法使いと談笑していた胡麻髭の農夫が大きな声で言った。
唾さえ吐きかける。
「この豚野郎が! いや豚にも失礼だな!」
黒の魔法使いは何も反論しなかった。
弟を守るためとはいえどうしてここまで出来るんだ。
私も涙を流してしまう。本当に弟を愛していたんだ。
こんなにも誰かを守れる強さをもった人がいるなんて。
彼への私刑はつづく。黒いローブもぼろぼろになっていく。
それでも彼は一切弁明しなかった。弟のために。
「あんた黒法に一文字足したいって言ってたな」
胡麻髭の農夫が言う。
「儂がつけやるよ。『魔』って字がお似合いだよ。『黒魔法』って名前がお似合いだ。忌み嫌われた名だろ『魔』ってのは。ぴったしだ。農夫にしちゃふるってるだろ」
そう彼はこめかみを指で叩く。
村人達も笑う。
「ははっ。この屑の一生をかけた研究にお似合いだな! 末代まで悪名を引き継がせてやろう」
黒の魔法使いは洞窟のでこぼこした地面に頬をつけながら朦朧とした眼で聞いている。もう血が抜け過ぎてるんだ。
「さて止めを刺してやるか」
そう村人たちは歪んだ笑顔で黒の魔法使いの周りを囲んだ。
揺らめいた赤い炎が洞窟内を照らしていた。




