第二百二十三話
彼の紅蓮の炎が洞窟を焼き尽くす。
凄まじい魔力だ。
木の棚も机も薬屋の娘の死体も全てが焼け焦げていく。
私のこの透明な身体が温度や匂いを感じ取れたら。
その感覚だけで頭が混乱してたに違いない。
それぐらい凄惨な状況だ。
白の魔法使いも言葉を失っている。
黒の魔法使いは彼に掌を向ける。
「お別れだなカーマイン」
そう彼は息を吸う。
「イクスプロジオン!」
黒の魔法使いは今度は爆発系の魔法を唱える。
白の魔法使いのすぐ横の洞窟の壁が崩れる。
石や岩が傾斜で転がってくる。
カーマインは怯えた様子で肩を震わせていた。
その傍に黒の魔法使いが寄る。
そして床に転がった石を拾い彼の身体に載せていく。
白の魔法使いは何だかわからないという顔をした。
「いいか。動くなよ。ここに隠れてろ」
「……兄さん」
「はっきり言っておく。お前は人間として最低な間違いを犯した」
そう彼は石を積みながら話す。
「決して許されないことだ。その罪を償え」
「兄さん」
彼は弟の呼びかけに答えず石を積んでいく。
「本来ならお前は殺されるのが当然の人間だ。それ程の罪を犯した事を自覚するんだ」
「じゃあ何で殺さないの?」
その言葉に黒の魔法使いは微笑んで石だらけになった弟の頬に手をやる。
「どんな馬鹿でも罪を犯した人間でも家族だけは愛してやらなくちゃな」
彼は無理して笑う。
「そうじゃなきゃ。あんまりにも寂しすぎるだろ」
その言葉にカーマインは大粒の涙を流す。
「兄さん。……兄さん僕は本当は」
そう彼が唇を震わせて言うが黒の魔法使いは急いで石を積む。
「もうすぐ村人が来る。時間が無い」
彼は白の魔法使いを抱きしめる。
「生きて罪を償うんだ。兄ちゃんはな。お前のことが大好きだったぞ。本当だ。どんなことがあってもお前の味方だ。だから絶対に人を恨んじゃだめだ。どんなことがあっても人を信じるんだ。それが生きるってことだ。幸せになるってことだ」
大粒の涙を流す白の魔法使いを黒の魔法使いが抱きしめる。
「弟の幸せが兄の幸せでもあるんだからな。お前がつらかったのはずっと知ってた。なのに、そんなに気持ちが追い込まれた事に気付いてやれなかった……」
黒の魔法使いも涙を流す。
「俺がもっと強かったら。もっと頭が良かったら。優しかったらお前を悲しませずにすんだのにな。本当に……」
黒の魔法使いの涙が彼の金色の髪に落ちる。
「本当にごめんな」
白の魔法使いの瞳が大きくなる。
「さらばだ。カーマイン」
そう彼は彼の頬に手を触れた。
「兄さ」
白の魔法使いの身体が硬直する
雷撃系の魔法だ。白の魔法使いは痺れて動けなくなる。
舌も動かせない様子だ。
「……にい」
その顔を石で埋めていく。
「愛してたぞカーマイン。生まれ変わってもまた同じ兄弟になろうな」
そう彼は弟の髪を撫でて彼を隠すための最後の石を置いた。
「……さて」
そう彼は洞窟の入り口の方に向きかえる。
村人たちの足音がすぐそこまで近づいていた。




