第二百二十二話
洞窟に別の声が響く。
村人たちの声だ。
「……兄さんが呼んだの?」
彼は首を横に振る。
「違う。だが村の人がこの付近で薬屋の娘を最後に見ていたんだ」
白の魔法使いの顔色が変わる。
「浮浪者や流れ者じゃなく。同じ村人が行方不明になったんだ。彼らだって必死に捜索するのは当たり前だ……」
黒の魔法使いは悲しそうな顔をして血だらけの洞窟を眺める。
「この娘だけの血じゃないんだろ?」
白の魔法使いは黙る。
「ねえ。僕どうなるの? 殺されるの?」
そう涙目で黒の魔法使いの胸に寄るカーマイン。
この身勝手さに私も心底腹がたった。
「……それだけで済めばいいがな」
白の魔法使いはその言葉に顔を膝をくずす。
「ああ兄さん。助けてよ」
そう彼の黒いローブにすがりつく。
「死にたくなかったんだ。わかんないだろ? 兄さんには! 病気で生きられない僕の心のつらさが!」
白の魔法使いは涙を浮かべる。
「未来が無いだけじゃなくて。生きてる間もずっと心を傷つけてられたんだぞ……。死の間際になってどれだけ悩んだか! 兄さんにわかるかよ!」
彼は黒の魔法使いの胸倉をつかむ。
「自分の人生に価値が無かったって思わされる人間の気持ちが……」
そう黒の魔法使いのローブを握りしめる手が震える。
背の低い白の魔法使いを黒の魔法使いが見つめる。
「どんなに自分の心を傷つけられたからと言って」
黒の魔法使いが小さな声で言う。
「他の人を傷つけて良い理由にはならない」
白の魔法使いの瞳が大きくなる。
「……心を傷つけられてから言ってみろ。人に全く愛されない立場を味わってから言ってみろ。みんなからいじめられてから言ってみろ。……この偽善者野郎」
そう言いながらも彼の瞳には涙が溢れていた。
黒の魔法使いは彼を洞窟の隅に突き飛ばす。
その掌に赤い光が宿る。
炎熱系の魔法だ。
「さらばだ。愛しの弟よ……」
そう黒の魔法使いは掌が輝く。炎熱系の魔法が発動された。
その赤い光が強く洞窟を照らした。




