第二百二十一話
「まあね。結局」
白の魔法使いは頭を掻いて笑う。
「人間は自分のためにしか生きられないんだよ」
「人に優しくするのも規則を守るのも無理をするのも。愛を口にするのも全部自分のためさ」
黒の魔法使いは黙って彼の話をきく。
洞窟の鍾乳石から水が滴る音が聴こえる。
「誰もがそうなんじゃないかって気持ちは胸には持っているけれど。それを口にはしない。なぜなら」
彼は首を机に置いて溜め息を吐く。
「あまりに真実に近いから」
白の魔法使いは力なく微笑む。
「人は都合の悪い真実より。甘美な嘘を好むんだ。……本心では偽りだと気付いてるくせにね」
彼は胸をさすりながらつづける。
「兄さん。僕はこの地上に生まれたそんな無数の凡人達と同じになりたくないんだよ。自分をごまかして最後に死ぬとき。自分の人生ってなんだったんだろ? そんな風に思うのなんて嫌だよ」
黒の魔法使いは白の魔法使いを見つめる。
「僕は正直に生きたい。だから」
彼は笑う。
「僕は僕だけのために生きるよ」
そう血塗れの手で胸をさする。
「僕の肺を誰かの犠牲で治したように。これからも誰かを犠牲にしても生きつづけてみせる。そうしてこの地上で一番偉大な人間になるんだ」
彼の眼はもう狂気に満ちていた。




