第二百二十話
「ああ本当にこの世界ってくだらないよね」
そう白の魔法使いは綺麗な顔をした薬屋の娘の頭を抱く。
「嫌な奴ばっかりでさ。僕だってたまに死にたくなるよ」
そう美しい顔をした白魔導師は微笑む。
「見てよ兄さん。こいつ」
そう頭だけの薬屋の娘の髪を撫でる。
「綺麗な顔してるよねー。でもこの美貌で一人自殺に追い込んでるんだよ」
黒の魔法使いは朦朧としたようすで額に掌をやる。
「肉屋のトムがいただろ? あいつこの娘に恋してたんだ」
彼は乾いた笑い声をあげる。その声が洞窟に響き渡る。
「この顔にやられたんだろね。……でもこいつ売女なんだ」
そう彼の顔が蝋燭の火で照らされる。
「他にもさ村人と関係を持ってさ。人の心を弄ぶのが楽しい人間だったんだよ。純情なトム。詩が好きだったトム。俺あいつが好きだったなあ。ちょつと間が抜けてたけど正直で優しい男で……」
彼は両手で顔を触って笑う。
「ところがこの女は他の男と結婚した。散々トムの心を弄んだ後にね。それは僕も横から彼らの関係を見て知っていた。結果、トムは小屋で首を吊って死んだ。……許せなかったなあ。人の心を傷つけた奴が幸せになるの」
彼は引き笑いをする。
「だからね。最後に彼女の良心を試したんだ。僕の誘いにのるかどうかでね。ほら僕この顔でしょ。可愛い顔してるでしょ? 良い性格でしょ? 女を口説くのはそう難しくないんだ」
白の魔法使いはつづける。
「ほいほい付いてきたよ。男好きの女だからねえ。それにね洞窟に入る前に僕の耳元に囁いたよ。『今度結婚する人は不細工だから貴方の子供を産みたいわ。お金はあるから育てるのは不自由しないから』」
彼は顔に掌をやる。
「もうすぐ殺しちゃったよね。あんまり心が汚くてさあ。こいつに触れられるのは凄い嫌だったよ。潔癖症なんだよね僕。それにトムの復讐が出来たみたいで嬉しかった」
黒の魔法使いは心の底から軽蔑した眼を彼に向ける。
「僕ね。優しい人が傷つけられるの見るの本当に嫌なんだ。それを黙認する連中も本当は感心しないけど。それは人の弱さだから仕方ない。自分がいじめられるのが怖いって気持ちもあるからね」
彼はつづける。
「だけどさ人の心を傷つけて死ぬほど追いつめた人間は」
また口角につくほど彼が笑った様に見えた。
「同じような罰を与えても良いと思うんだよね」
そう白の魔法使いは濁った眼で彼の正義を語った。




