第二百十九話
「お前……」
「ごめんね」
彼は手を合わせる。
「お茶淹れなきゃね。気の利かない弟でごめんね」
彼は死体を放っておいて棚に走る。
その肩を黒の魔法使いが押さえる
「ん?」
そして彼は白の魔法使いの頬をはたいた。
カーマインは頬を押さえてきょとんとした顔をする。
「……お前、お前」
黒の魔法使いは怒りで言葉も無いといった感じだ。
「自分が何をしたかわかってんのか!」
そう洞窟に響き渡る声で叫んだ。
それでも弟はけろっとしている。
「ああ。兄さん嬉しいことがあったんだよ。僕ね。病気が治ったんだ。『これ』のおかげだよ」
そう笑顔でばらばらになった死体を指す。
白の魔法使いは首だけになった頭を取り娘の顔に頬ずりする。
「ゴミみたいな命でも少しは役に立った」
黒の魔法使いがまた白の魔法使いの頬をはたいた。
「……ホント何してんだよお前?」
彼の唇が震える。
「最初はね……。自殺志願者だけ集めたんだ」
彼は赤くなった頬を押さえながら話す。
「浮浪者や仕事の無い人間と話したんだ」
黒の魔法使いは黙って話を聞く。
「『痛みなくこの世界とお別れでできるなら死にたい?』 そう訪ねたんだ。そしたらさ」
白の魔法使いは額を押さえて笑う。
「みんな死にたいってさ!」
彼の高笑いが洞窟に響く。
「同意の上だよ兄さん。僕は人助けしたんだよ! 僕の白法なら痛み無く殺せるからね! みんな笑顔で死んでいったよ」
「ふざけるな」
黒の魔法使いが彼の胸倉を掴んだ。
「兄さんは弱い人間の気持ちなんか全くわかってないよね。死にたい人間も大勢いるんだよ。それに本当の意味で殺したのは僕じゃないよ」
彼は笑う。
「彼らを殺したのは、彼らを死にたいって思う程追いつめたこの世界さ」
黒の魔法使いの拳が白の魔法使いの顔に入る。
「この野郎! 罪の無い人間を何故殺した!?」
「暴力で人の意見を変えようとするなよ。僕は本当にそう思ってるんだぜ」
彼は唇に血を流しながら薄ら笑いを止めない。
「それにその口ぶりじゃ」
彼はへへっと笑う。
「罪のある人間は死んでも良いみたいじゃないか」
その言葉に黒の魔法使いの拳が止まる。その眼には涙すら浮かんでいた。




