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第二百十七話

「凄いなあ。お前の『白法』噂になってるぞ」

「……そう」

白の魔法使いは力無く頷く。


あまり嬉しく無さそうだ。

「どうした喜ばないのか?」

「ゴミ屑にいくら愛されようが嬉しくないよ。僕が欲しいのは本当の愛だ」


彼は指を齧りながらぶつぶつ言う。

「あいつらの興味は利益だけだ。役に立たなくなったら僕を捨てるだろう……。でも孤独は嫌だ。もっともっと役に立たないと」

黒の魔法使いは彼の様子に心配そうな顔をする。


「あっほら。魚のパイだ。食えよ。お前どうせ料理なんかしないんだろ?」

そう彼は机に籐の籠を置く。

白の魔法使いはその籠を机から叩き落とす。


「あの女が作った料理なんかいらない」


黒の魔法使いの瞳が大きくなる。

それでもその飛び散ったパイの屑を手で集める。

「あっいや。俺が作ったんだがな。……お前好きだっただろ魚のパイ」


「あぁごめん兄さん! ごめん! 頼むから嫌いにならないで!」

その白の魔法使いの剣幕に黒の魔法使いの顔が歪む。

そりゃそうだ。私だって同じ顔になった。


「僕には兄さんしかいないんだよ」

そう彼は黒の魔法使いに抱き着く。

「兄さんしかこの世界で僕に優しくしてくれなかった」


彼は涙を浮かべながらつづける。

「父も義母さんも僕を殴ってばっかりで。ひどい言葉ばっかり吐いて。村の友達も僕をいじめた。だけど、だけど兄さんだけが僕の味方だった。絶対に僕を傷つける事を言わなかった。守ってくれるって約束してくれた。その言葉で僕生きてこれたんだよ」


白の魔法使いの涙が黒の魔法使いの肩を濡らす。

「嬉しかったなあ……。でもさあ。なんで。なんで?」

彼はしゃっくりをする。


「あの女と結婚したの?」


黒の魔法使いには見えなかっただろうけど私の位置からは白の魔法使いの眼が蛇みたいに歪んだのが見えた。


「約束したのに。僕寂しかったんだよ。兄さんがいないと寂しいんだよ。それなのにさあ」

彼は黒の魔法使いを抱きしめながらつづける。


「一人だけ幸せになっちゃって。ずるいよね。子供まで出来て。可愛いね。殺したくなっちゃうぐらい可愛いね。僕の可愛い甥っ子達。ふふふ」

そう彼は笑う。


「ああ僕の悲しさの百分の一でも兄さんが解ってくれたらなあ」

そう彼は黒の魔法使いの耳元で囁く。

「こんなに嬉しいことは無いのに……」


そう白の魔法使いは耳につくかと思うぐらい口角を上げた。

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