第二百十六話
「ふーん何だか物騒ですね」
そう黒の魔法使いは頭を掻きながら答える。
「ええ。でも流れ者や浮浪者だからまぁそこまで神経質になる必要も無いんですが……」
黒の魔法使いは農夫と世間話をしてる。
「あっそうだ。弟さん! 彼も大した力の持ち主ですってね!」
「あっ御存知なんですか?」
彼はまた唾を飛ばす。黒の魔法使いの顔がそれでびちゃびちゃになる。
「御存知なんて馬鹿なことを。もう有名人ですよ! 治癒の力! 村長、それに村の人々を次から次へと救って! いやあ兄弟揃って大したもんだ!」
農夫は歯の抜けた顔で笑う。
「うかうかしてると弟さんの名声に負けてしまいますよー」
黒の魔法使いも微笑む。
「はは。ほんとですね。でも本当に良かった」
農夫は不思議そうな顔をする。
「弟が幸せになるのも兄の喜びの一つですから」
農夫もその言葉に微笑む。
「あっもちろん。悔しい気持ちもちょっとはありますがね」
そう黒魔法使いは照れくさそうに頭を掻く。
「丁度これから行く所なんですよ」
そう大きな籐の籠を見せる。
「あいつやもめ暮らしですから。家庭の味に飢えてると思って」
そう黒の魔法使いは笑う。
それから彼は野道を歩く。
あばら家の戸を叩く。
「おーい開けてくれ」
そう彼が言うと重たそうに木製の扉が開いた。




