第二百十三話
「な、なんで」
私の疑問はもっともな筈だ。
子孫? にしても顔が似すぎてる。
「おいおいそんなに見とれるなよ三百歳近い顔には見えないか?」
ということはやはりカーマイン・ブランドなのか。
眼の前に靴の底が見えた。
やばい。
急いで避けたけど耳に当たった。
後ろに下がりながら両方の手で耳を触る。
良かったちぎれてない。
まだついてる。
「失敗作は見たか?」
彼は上機嫌な様子で私に話しかける。
「失敗作?」
「山村のゴミ屑野郎のことさ」
不老不死の魔法使いのことか。
「まぁ時魔法で肉体を維持するなんてごまかしに過ぎないんだな。だからあの屑は発狂したのかなあ」
そう彼は笑う。
「生命の神秘を探る。やはりこれこそが不老不死の王道だな」
歪んだ顔だ。私は息を整えて彼との距離を取る。
なんとなく察してきた。
「地下の実験場はそのために作ったの」
「ああ。そうだよ。俺の延命のための聖域さ」
自分勝手って言葉がこれほど似合う奴はいない。
「でもなあ」
彼は溜め息をつく。
「俺ももう限界なんだよ。こう見えて内臓がぼろぼろなんだ」
彼は心底悲しそうな顔をする。
「俺が生き続けるためにはもっとたくさんの実験体が必要だった」
その言葉に反応してしまう。
「……ひょっとして」
「うん?」
その推測を口にするのが嫌だった。
「そのために戦争を起こしたの?」
風が私の髪をなびかせる。
彼はきょとんした顔をした。
「そうだよ」
胃に冷たいものが落ちた様な気がした。
彼は平然と言い放った。
この戦争のために一体何人の人間が血を流して、心を傷つけて。
何故か涙が浮かんでしまった。
本気で人を殺したいと思ったのは初めてだ。
掌を彼に向ける。魔力を蓄積なんかしない。すぐ焼死させてやる。
でも魔法は発動しない。
「な、なんで」
「学習能力の無い奴だなあ。あの時だけだと思ったか?」
片手で喉を掴まれた。
「あぐぅ」
その腕を頑張って両手で叩く。でも離してはくれない。
息が苦しい。
「俺は魔法を無効化できるんだよ。そもそもお前らが使ってる魔法式を作ったのだって俺なんだぜ。自分が作ったものに殺されるわけないだろ」
瞳が震える。
「黒魔法使い……。反吐が出るぜ。特にお前は何処か兄貴に似てるな。眼が似てる。その自分だけが正義みたいな眼。気に入らねえ」
彼の指が私の咽喉を強く押す。
「あっぁぁ」
血が出てるのがわかる。彼の指で私の身体が貫かれそう。
きっともう声も出なくなる。
兄? ヴィンセント・ブランドのことか。
でも死んだのは本当はあなたの筈でしょ?
洞窟で死んだんでしょ。
悪い魔法使いは黒の魔法使い。
良い魔法使いは白の魔法使い。
なのに今この状況は何。
真実は何だったの?
眼の前が真っ白になっていく。死んじゃうのかな私。
意識が飛ぶと眼の前に白い世界が広がった。




