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第二百九話

「ゴーディさん……」

ジャンが澄んだ瞳で彼を見つめる。

「おっとそれ以上近づくなよ」


彼が剣を向ける。

「斬り捨てるぞ」

ジャンの顔が曇る。


「戦わなきゃならないんですか?」

「ああ」

ゴーディさんが短く答える。


「何で!? あんたも分かってる筈だ! どちらが正義かってことぐらい! だからこんなにも灰騎士が反乱に加担した。地下組織もグランド将軍の軍勢もこの聖都を包囲するのに協力した! ……民衆だって真実を知ったからにはこちらの味方になる!」


彼はゴーディさんの足元を指差す。

「それにその数が物語ってるだろ」

死体の山。私達とは違う階段で何人も辿り着いていたんだ。


だけど誰もここを抜く事が出来なかった。

最強の黒騎士が教皇までの道を塞いでいたからだ。

しかし彼にも疲れの色が顔に浮かんでいた。


息も少し切れている。

彼はいつかみたいに煙草を胸元から取り出す。

「大多数が正義じゃない」


彼は煙草を咥えながら語る。

「正義が少数の時もある」

青い煙が踊り場に漂う。


「それに誓いを守るのが騎士だと教えただろう。その俺が道を曲げたらお前らに伝えてきたことが嘘になっちまう」

「そんなの……」


ジャンは子供みたいな顔で反論しようとする。

本当に戦いたくないんだ。


「それに俺は黒騎士だ。お前らと同じ道は歩めない。お前らと同じ新しい未来を見るには俺の手は血に塗れすぎてる」

「そんなの許しますよ! 許しますから! ……だから」


ジャンは肩を震わせる。

「生きましょうよ! それに過去にとらわれるなって言ったのは貴方でしょう! 俺は、俺は未来を見ましたよ! 愛する人と生きる未来を選びましたよ! だから、だからゴーディさんも……」


彼の叫びが空に近い大聖堂に響く。

一瞬、ゴーディさんが微笑んだ様に見えた。

「そうか。お前にはそこの魔法使いがいたんだったな」


彼は眼を細める。

「大切な人が見つかって本当に良かったなジャン」

その優しい声が胸に響いた。


その言葉に彼の顔を見てしまう。

もう元の寂しげな顔に戻っていた。

彼は剣を構える。


「男同士だ。もうこれ以上言葉はいらんだろ。後は」

彼は息を呑む。

「己の腕で正義を語れ」


ゴーディさんの剣閃が飛ぶ。

それをジャンが受け止める。

止めれた。


何故か私が喜んでしまう。

この前と違って勝負になりそうな雰囲気だ。

彼とゴーディさんは鍔迫り合いをする。


妙に階段が空いている気がした。

ひょっとして……。

私はゴーディさんを見る。


前に進めという意味なんだろうか。


彼はジャンと剣を打ち合ってる。

どんどんと階段から離れていく。

真意はわからない。


ただ事実として教皇への道が開けている。

この機会を逃すほど私は臆病じゃないぞ。

勇気を振り絞って最後の階段に足をかけた。


心臓が裂けるくらい駆けるんだ。

今が私が一生懸命になる時だ。

この一瞬に全てをかけろ私。


どういう運命の悪戯か知らないけど大事な局面に私はいるんだ。

何にも無い私だけど勇気を振り絞ることぐらいできる筈だ。

そう思って拳を握りしめる。吐きそうな内臓をごまかして走るんだ。


黒いローブそれに髪も揺れる。

高みに近づけば近くほど息が白くなっていくのがわかった。

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