第二百八話
もうちょっとで頂上だ。
ここまでくると息が切れてくる。
階段の数も減ってきた。一本道になってきた。
「ジャン」
「ん?」
そう駆けながら話す。
「もしさ。この戦いで生き残ったらさ」
「ああ」
「一緒にソルセルリーに帰らない?」
こんな時に何言ってるんだと思う。
頬が熱くなった。
だけど今しか言えないと思ったんだ。
真剣に生きてる今しか本当の言葉を言えないと思ったんだ。
それにただ待ってるのはつらいよ。
本当に愛してるから自分から動きたいんだ。
答えは返ってこない。
駄目かな。
「……答えはこの戦いの後でいいか?」
私はきょとんとした顔で彼の顔を見つめる。
「俺達は絶対に生き残るんだ。だからちょっとぐらい先延ばしにしたって良いだろ?」
私も頷く。
「うん!」
足が軽くなる。階段を飛んだ。
きっとここが最後の踊り場だ。
既に辿り着いた兵士達や灰騎士が倒れている。
漂う煙草の匂い。
たくさんの階段が集まる踊り場。
一番重要な防衛地点。
ここから先は教皇につづく一本道の階段しかない。
だから当然ここにいるのは……。
「あーきちまったかお前ら」
懐かしい枯れた声。中年らしい声。
「覚悟はできてるんだろうな?」
そうゴーディ・ニコルソンは言う。
最強の黒騎士が私たちの前に立ちはだかった。
空が街の火で赤く燃えてる。




