第二百六話
階段を駆けてると所々で兵に出くわす。
ジャンはそれをいとも簡単に切り捨てていく。
戦いの中で彼も強くなっているんだ。
また踊り場に出た。
眼に入るのは灰騎士と魔法使い達の死体。
彼等はここから先に進めなかったんだ。
「まったく嫌になるぜ」
そう銀色の髪の男が長い髪をかきあげる。
街の火を映した赤い空を背景にして彼は笑う。
「雑魚ばっかりでよお。またこのルーシャス・ベロック様の餌食かあ?」
そう血塗れの黒騎士が舌なめずりする。
ヴァルディングスを殺した騎士。
私の心に復讐の火が燃える。
空気が張りつめる。
最強の騎士の一人を私達だけで倒せるだろうか。
「ったく。階段多すぎなんだよ馬鹿な設計しやがって。守りづれえだろうが。他の奴に良い敵取られたらどうしてくれるんだ。クソが……」
そう彼は下を向いてぶつぶつ言っている。
隙があるように見える。
しかけるか。
そう私は足を前に出す。
「馬鹿! 止せ!」
そうジャンが叫ぶ声が聞える。
黒い影が一足飛びで距離を詰めたのがわかった。
銀色の髪がなびいている。歯が見える。笑ってるんだ。
黒騎士の鞘から剣が抜かれたのが何故かゆっくり見える。
死ぬ。
なぜか冷静に判断できた。
その剣を別の剣が弾く。
ジャンの剣じゃない。
いつかの氷柱を砕いた様な速い剣。
誰かを護る剣。
赤い髪が眼に入ってくる。
あの時と同じ。
黒騎士さえその剣の勢いに後方に飛ばされた。
灰騎士の口には笑みが浮かんでる。
「言ったろ」
懐かしい声。
「俺の前じゃ美人は殺させないって」
そうクルスさんが銀色に光る剣を黒騎士に向けた。




