第百九十八話
「随分、黒騎士を増やすんですな」
聴きなれた声がする。
グランド将軍の声だ。
「平時ですと困難な試験ですがこの戦争の後です。地獄を見てきた人間ならば乗り越えられると教皇も考えたのでしょう。一気に欠員補充というわけです。元来ならば娘や子供、悪い時は家族を斬り殺すことが最終試験なんですが今回はこの通り」
そう言って蹴られた。
「魔法使いの『処分』が条件というわけです」
「でも将軍がいらっしゃるとは。それに警備の兵までお借し頂いて」
大司教の声も聞こえる。
「滅多に無い事ですからな。それに黒騎士になる男の一人が我が軍で世話していた男でして。いろいろ想い入れがある男なんですよ」
なるほどと答えた声がした。
「正式な任命式は大聖堂で行いますからそちらも是非いらっしゃってください」
「おや。てっきりこちらの練兵場で行うのかと思ってましたが」
大司教の小さな笑い声が響く。
「ここは検分のための場ですよ。教皇に血を見せる訳には参りませんから。この灰騎士達がきちんと『提出』できるか私が代わりに確認するわけです」
彼はつづける。
「中にはくだらん感情に支配されて『提出』できない愚かな灰騎士も今まで少なからずいましたから。その時はお兵をお貸しください。腐っても黒騎士試験を受ける灰騎士。中々『処分』も大変でして……」
老軍人の笑い声が響く
「そちらは安心して結構ですぞ。選りすぐりの精鋭を軍団からかき集めて参りました。この場にいるのはいずれも一騎当千。正義を遂行する戦士達です」
大司教の濁った声が聞える。
「それを聞いて安心しました。私の兵もおりますし万が一つにも反逆者には逃げ場が無いですね。それこそ『奇跡』でも起きない限り……。では検分をはじめましょうか」
靴音が近づいてくるのがわかる。
それを身体でも感じる。
本当に上手くいくのジャン?
そう私は汚れたずた袋の中で頑張って震えを殺した。




