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第百九十七話

私は渇いた声で笑う。

「あはは。じゃあ何? 私もあの実験体になるの?」

そう震えた瞳で聞いた。


彼は言葉に詰まる。

「……本来ならな。魔法式を使ったお前らを調べたい人間は大勢いる」

「はっ。何処かで聞いた様な台詞言っちゃってさ」


そう皮肉気に呟いても頭が焼ける様な感覚は無くならなかった。

「だが抵抗された場合は殺してもかまわんとも書かれている」

どっちにしろ死ぬんじゃん。


「どちらが良いかお前に選ばせてやることぐらいは出来る……」

私は黙ってシーツを強く握る。

「……何だったの」


彼は黙って私の言葉を聞く。

「何だったんだよ!?」

私は立ち上がって彼の胸倉を掴む。


「この戦争の意味! 私達が戦ってきた意味!」

そう涙を浮かべて彼を揺さぶる。

はじめての状況だったけどそんなの気にしない。


「嘘ついて領土広げて! おまけにあんな人間の尊厳を奪う様な実験体集めて! 帝都から運ばれてきた人達もあそこにいたんでしょ! ふざけんなよ! こんなんだったら、こんなんだったら……」


私は床に膝を着く。

「私たちが頑張らない方が良かったってことでしょ……」

涙が止まらない。


私たちがしてきたこと全部無駄だったの?

あんな怖い思いして。

あんなに勇気を振り絞って戦って来たのに。


想い出が頭を巡る。


無駄どころか悪に加担してたんじゃないか。

「あっ、ああ」

わけのわからない声が出る。


最低な結末だ。

顔を抑えてしまう。

結局利用されるだけ利用されて最後はゴミの様に処分される。


私の命って? 私の人生ってなんだったの?


「ははっはは……」

手で顔と髪をぐちゃぐちゃにしてしまう。

「他の魔法使い達も?」


そう涙でぼやけた視界でジャンに聞く。

「おそらくな」

これが絶望か。


私本当に死ぬんだ。

……だったら。

「ジャン。私死ぬの?」


彼は苦しそうな顔で頷く。

「ああ。一週間以内にお前を大司教に『提出』しなければならない」


私は力無く笑う。

「じゃあ。もう我慢する必要ないね」

私は彼をおもむろに抱きしめる。


やっと彼の温もりを感じられた。

やっと素直になれる。


「ずっとずっと好きだった大好きだった。一緒になりたかった。だけど無理だってこともわかってた。騎士と魔法使いが結ばれるなんてありえっこない」


彼も私の髪を撫でる。

「好きになってからずっと苦しくて悲しくてそれでも離れたくなくて」

涙で彼の肩を濡らす。


「こんなに人を好きになったのははじめてだった……」

駄目だもう何を言っても言葉が嘘になってしまう。

この気持ちを伝えられる方法を教えてよ。


迷ってると彼が強く抱きしめてくれた。

簡単に私の身体が纏まってしまう。それぐらい強い抱擁だった。

「まだあの時のつづきを言ってなかったな」


彼の身体に包まれていても涙が流れる。

「俺もお前が好きだ。……離したくない。愛してるんだ」

その言葉に瞳が大きくなる。口もほころんでしまう。


「ああ。ジャンはやっぱり優しいな。最後に一番聞きたい言葉を言ってくれた」

私は彼の手をつかみ私の首を触らせる。

「これあげる。せめて幸せな気持ちのままいかせて。お願い。ジャンの腕なら一瞬でしょ」


そう震える瞳で彼を見つめた。

「……本当にいいのか?」 

私は頷く。


「わかった。俺もお前のあんな姿なんて見たくない。一瞬で斬ってやる。……その前にもう少しだけお前を感じさせてくれ」

彼はまた私を強く抱きしめる。


「お前といれて幸せだった」

それは私の台詞だよ。

いつかの彼を思い出す。あの時みたいに私の言葉は声にならなかった。


さよなら私の冒険。さよならメニョ。さよなら……。

私の愛しい人。


眼を瞑ると蝋燭の赤い光が眼に浮かんだ。

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