第百九十六話
宿の夕食は芋と人参と玉葱のスープだった。
薄茶色に輝く汁を啜る。
私はそれを口に含みながら何も喋らなかった。
彼が何も話さなかったから。
公園に連れていってくれた件といい何か変だ。
表情が曇っている。
夕食後、宿屋のおじさんから蝋燭をもらう。
もうローブを脱いで薄着だっから階段を上るのが少し寒かった。
私達の部屋を開ける。
ジャンは自分のベッドに座って何か考える顔をしていた。
「もう寝るのジャン?」
「……ああ」
そう答える割には床に着こうとしない。
私はベッドの間にある小机に蝋燭を置く。
自分のベッドに腰掛ける。
「本当のこと言っていいよ」
そう私は彼の瞳を真っ直ぐ見る。
彼の身体が少し震えた。それから下を見るようにして眼をそらす。
「ジャンがそんな顔する時って良くないことがあった時だよね」
私は無理矢理、微笑んでみる。
「話したいこと実はちょっとわかってるんだ」
笑顔はくずさない。
「だから言って。ジャンの口からはっきり聞かせて」
彼はばつが悪そうに私の顔を見る。胸元から小さな紙を取り出す。
大司教から渡された紙。それを開く手が震える。
「……ここにはお前を」
彼の顔。苦しそうだ。
「『処分』しろと書かれている」
ジャンは短く言葉を切った。後はもうわかるだろといった具合だ。
言いづらいこと早く言い終わりたかったんだよね。
身寄りのない私達が集められた理由。
寿命削られるだけじゃなかったんだ。
最後までちゃんと考えられてたんだ。
本当の意味で骨の髄まで利用される計画だったんだね。




