第百九十話
「びんぼーにーん」
「服、汚っ。それに臭っ」
そう男の子達が妹さんをいじめている。
子供の頃のジャンがその場に来ると男の子達は逃げ出す。
「大丈夫か? あんな奴ら気にするなよ。」
「ありがと。でも良いの」
彼女は寂しそうな顔で呟く。
「汚いのも臭いのも本当だから」
その言葉を聞いて彼は悲しい顔をする。
「今度お兄ちゃんな。煉瓦焼きの仕事のお金入ったらな。ミチカに好きな服買ってやる。もうみんなに馬鹿にされないような服! ディーゼさんの店で買おう。あそこは一度買ったら季節ごとに直してくれるいい店だから」
「ホント!?」
そう彼女は眼を輝かせる。でも暫くするとまた寂しそうな顔になった。
「でも良いよ。だってお兄ちゃん働いてばっかり。学校行って働いて。毎日くたくたな顔してるもん。手だっていつも皮が剥けて赤く腫れてる。……私だけ贅沢なんてできないよ」
彼は微笑む。
「馬鹿だなミチカ。お兄ちゃんは全然平気だ。お前の幸せのためならいくらでも頑張れること知らないだろ」
彼は妹を抱き寄せる。
「そうなの?」
「ああそうさ。お前を絶対幸せにしてやる。約束だ」
彼女も嬉しそうな顔で微笑む。
「夢のパン屋さんまでもう少し?」
彼も頷く。
「ああ学校を卒業したら一緒にやろう。そのためのお金も貯めてある。俺がパンをつくってお前が店先に立つんだ。……俺はどうも無愛想だからな。だけどお前は母さんに似て美人だ。きっと大繁盛だぞ」
彼女もその夢を想うような顔をして頷く。
「じゃあ。いつもの公園で待ってるね」
「ああ。俺も後で鞄を置きに戻るよ。その時家の鍵開けるよ」
そう彼は妹を見送る様に手を振った。
その後ろ姿を見る彼は幸せそうだった。
その後頭部に拳が入る。
ジャンはたじろいだ。
「おい何やってんだよ貧乏人」
そう貴族風の子供達が彼を囲む。
彼を襲う言葉の暴力。
彼もまたいじめられていたのだ。




