第百八十九話
「お兄ちゃん!」
そう小さな女の子が私に飛び込んでくる。
避けようとしたが間に合わない。
『おわっ』
そう身体をひるませる。でも、あれ?
彼女は私の後ろを何事もなく駆けて行った。
私を通過した?
手を見ると私は半透明だった。
掌を透かして見る。
なんだか不思議な感じ。
「お兄ちゃん。学校どうだった?」
「うるさいなー。あんまりまとわりつくなよ」
そう黒髪の男の子が言う。誰かの面影があった。
ジャンだ。
「いいかあ。薪は大切に使えよ。これから寒くなるからな」
「うん。わかった」
「絶対だぞ!」
この小うるさい感じ。そっくりだ。
そう声を抑えて笑ってしまう。
どうやら私は彼の過去を見ているらしい。
ここは彼らが暮らしてる部屋みたいだ。
お世辞にも豪華とは言えない。
蜘蛛の巣は張ってあるし。狭い。床の木も壁の木も腐ってる。
どうやら貧しい暮らしいみたいだな。
でも窓はある。私はその傍に寄って外を眺める。
先程私達がいた公園が見えた。
「いいか。父様も母様も病気で亡くなってしまった」
「うん」
「これからは俺達二人だけなんだぞ。力を合わせて生きていかないと」
彼女は微笑む。
「お兄ちゃんと一緒なら大丈夫だよ! 頼りになるもん」
「こいつ」
そう彼は妹を羽交い絞めにして笑った。
私には貧しさがあっても幸せな兄弟に見えた。




