第百八十七話
一通り『奇跡』の研究過程を見せてもらった。
終わった頃には反吐が出る気持ちで一杯だった。
胸をさすりながら出口に来た。
「はい! これで終わりです。ご苦労さん」
そう大司教は笑顔で言う。
灰騎士たちがざわめく。
「これで試験が終わりってことか? ……意外と簡単?」
「充分な内容だったろ」
そう口に手を当てながら別の灰騎士が言う。
「あぁ。これ宿題ね。ちゃんと提出してね」
そう彼は灰騎士一人一人に小さな紙を渡す。
その紙をすぐ見る者もいれば握ったまま見ない者もいた。
ジャンはすぐ見た方だった。
「何書いてるの?」
そう覗き見しようとしたら紙を隠された。
「じゃあ帰りたくなった人から帰っていいよ。お疲れさーん」
私達は地上に昇る階段に足をかける。
すると何故か二人の灰騎士だけ足を動かそうとしなかった。
「うん? どうしたの君達?」
そう大司教が訪ねる。
「もっと『奇跡』について勉強したいと思いまして……」
その灰騎士の声には何故か含みみたいなものが感じられた。
その言葉に大司教の眼が光る。
「……それは当然その魔法使い達も一緒って意味で良いのかな?」
彼等は頷く。
隣にいた男の子と女の子の魔法使いが騒ぎ出す。
「やだよ。こんな気持ち悪い所。一秒だっていたくない」
「帰りましょうよ。私こんな場所にいたら……。頭おかしくなる!」
灰騎士たちは頬を叩いたり肩を抑えたりして彼らを説得する。
「大丈夫だ」
「すぐ済むから」
大司教は私達に眼をやる。
「君たちはもう先に行っていいぞ」
私は階段に足をかけたまま何故かその光景を見つめてしまう。
嫌がる魔法使い達。
なんだろ。ここから離れちゃいけない気がする。
「カーシャ行くぞ」
そうジャンが私の肩に手をかける。
でも。私はためらう。
『もう彼女たちは助からない』
胸にジャンの声が響いた。
思わず彼の方を振り向いてしまう。
彼の唇は動いてなかった。
「早く出よう」
そう彼は私の手を掴み足早に階段を上がってく。
私は階段を上がりながら魔法使い達を見る。
助けを求める様な瞳をしていた。




