第百八十五話
燭台の火が揺れていた。
私たちの顔はその薄赤い光で照らされる。
「さて物語はここで終わらせることもできる」
大司教は集まった十六名の灰騎士に問いかける。
その中にクルスさんの姿は無かった。
興味無いって言ってたもんな。
「花火も見た。肉も食べた。後は幸せな故郷に帰るだけだ。君たちの戦いの物語としては十分終わりにできる。美しい記憶を持ったまま帰れる。そうだろ?」
彼は灰騎士の一人に顔を近づける。
その騎士はとまどった様に頷く。
「真実を知る覚悟の無い物はここから去りたまえ」
その口調は静かだったが真剣なものに聴こえた。
「黒騎士の試験はそんなに生易しいものではない。不合格すなわち死だ。それに試されるのは剣の腕ではない……」
その言葉に灰騎士たちは多少ざわついたが辞退者は出なかった。
黒騎士というのはそれほどまでに名誉ある称号なんだろうか。
私は下からジャンの顔を見る。
彼も強張った顔をしている。緊張してるんだ。
彼の夢を叶える条件の一つが私がついていくこと。
だから私も怖いけどつきあってあげるよ。
ずっとなりたかったんだもんね。
「……辞退者は無しか。宜しい。では案内しよう」
そう彼は指を鳴らす。
ついてこいという仕草をした。
長い廊下を何本も歩いた。大聖堂の名に恥じぬ大きさだと思う。
私なんかじゃこう何度も曲がったりしてると今何処を歩いてるかわからなくなる。
そのうち蝋燭で照らされた鉄格子が見えた。
脇に警備兵が二人立っている。
私たちが近づくと彼らは承知した様にその鉄格子を開けた。
地下に続く階段が見えた。
大司教はその階段を降りていく。
私達も彼の背中についていく。
大きな螺旋階段だ。円の中心が開けてるのに手すりも何もない。
ちょっと怖くなってジャンの外套を掴む。遥か下を覗き込むと微かな松明の光が見える。
長い階段を降りていくとまるで地獄の底に近づいていく様な感じすらした。
降りきると広間があった。
目の前に大きな木製の扉がある。
古くて朽ちていて妙に変色している。濃い黒に近い。
妙に威圧感のある扉だ。
まるで誰かの運命を変える様な。
そんなことを考えていると大司教が口を開いた。
「もう後戻りはできないぞ」
私たちは頷く。
「では」
彼は扉の前に立つ。
「真実へようこそ」
そう彼は朽ちた扉を開けた。




