第十九話
「御嬢ちゃん」
「え、あ、はい!」
「買うの買わないの?」
そうパン屋の主人は苛立った様子で聞く。
「あ、買います。買います」
ぼーっとしてた。
きつね色に焼けた美味しそうなパンを眺める。
いつも買う安くて固い黒パンを手に取った。
それをおじさんに渡す途中、柔らかく綺麗に切られた白パンにも眼が止まった。
煉瓦細工の坂道を歩いてると魚屋の前でメニョと会った。
「カーシャ買出し? うちにも寄ってきなよ」
そう笑顔で駆け寄ってくる。
「あれ?」
私が持ってるものを見て目をぱちくりさせる。
「白パンにチーズ! 新しい布地。葡萄酒まで!?」
彼女は籐のパスケットと私を交互に見る。
「カーシャ誕生日まだ先だよね?」
「うん」
彼女はそっか本のお金が入ったんだねと勝手に納得する。
「でも使いすぎは駄目だよー」
そうメニョは両方の手を後ろにまわしながら話す。
「メニョは誕生日もうすぐだったね」
「そうだよ。今年は何贈りあう?」
「あのさメニョ。私ね……」
「うん?」
そう微笑む彼女を見ると何も言えなかった。
「何でもない。またね」
そう彼女に手を振って煉瓦の坂道を下ってく。
メニョも笑顔で手を振る。
角を曲がって彼女が見えなくなった後ローブのポケットに手を入れた。
九枚の銀貨を掌に出す。
私が買われた値段だ。