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第百八十三話

朝霧の中で馬を用意する。

聖都に向かわなきゃ。

まだ二日酔いで気持ち悪い。


ジャンも馬のたて髪を撫でていた。

そんな私たちの横を一台の馬車が通って行く。

檻が積んであった。その中に人間が入っている。


私が不思議そうに眺めたのに気付いたのかジャンが口を開く。

「……奴隷だろうな。聖都で使われるんだろう」

その言葉に唇を噛んでしまう。


「おーい!」

そう野太い声が城門から聞える。

グランド将軍が腹を揺らせながら走ってくる。


側近も一緒だ。

「忘れものだぞ」

そう彼は息を乱しながら私に筒を渡す。


「なんですかこれ?」

そう筒を開けて中の羊皮紙を見てみる。


終身名誉魔導師。


その字がまず眼に入った。証明書だ。

「これでお前も故郷に帰ったら年金暮らしだ。小さいが家も着くぞ。それで家族でも作って暮らすが良い。それがあれば魔法学院で職を得るのだってたやすいだろう」


その証書を持つ手が震える。

特権階級になれる。魔導師。ここまでくれば市民だって馬鹿にしない。

私がずっと望んでいた普通の生活ができる。


でも。

私は唾を飲む。

「お断りします。私には必要ないです」


私は微笑んでその羊皮紙を筒に入れた。それをグランド将軍に返す。

「な、何故じゃ? お前にとっては喉から手が出る程欲しい物だろ? だからわざわざ……」


私も頷く。

「その通りです。ずっと人から馬鹿にされたくない生活を望んでました」

「……だったら」



「確かに終身名誉魔導師になれば私が望んだ生活が手に入ります。でも」

私はゆっくりと唇を動かす。


「だれかを傷つけたことを私の名誉にしたくはありません」


老軍人は心底呆れた様な顔をした。

「馬鹿なんです私。それに」

そう言って馬に跨る。


「私は魔法使いで十分です。この呼び名が気に入ってます」


そう頭を下げ彼に背を向ける。

ジャンもその後につづく。

暫く沈黙があった。きっと怒ってるんだろうな。


すると背中に笑い声が飛んで来た。

「ははっ! 傑作じゃ! 世の中にこんなに大馬鹿者がいるとは!」

私が振り返ると彼は腹を抱えて笑っている。


「だが! 吾輩はそんな大馬鹿者が大好きだぞ! 魔法使い!」

彼は大きく息を吸った。

「一生! その心を貫いていけよ!」


そう今までで一番大きな声で言った。その声が朝の城門に響いた。

不思議とうるさいとは思わなかった。


「はい!」

そう頑張ってお腹から声を出してみたけど全然彼の声の大きさには敵わなかった。老軍人の大きな声は冬の空にいつまでも響いていた。

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