献身の竜 編 おわり
クルスさんが陥落させた帝都の廊下を歩いてくる。
「おー。カーシャちゃん」
私は彼の顔を訝しげに見つめる。
「……クルス・ランブリング」
「うぉっ。何故に急に本名で?」
彼はなるほどと言った顔で頷く。
「ああ。そうかついに俺の苗字が気になりだしたんだね。カーシャ・ランブリングか悪くないね。ああ。でも俺にはアミィという存在が。でもどうしてもって言うなら二人同時にでも。美人二人と暮らせるなんて夢の様だなあ」
なんかぶつぶつ言ってるけど無視して考える。
戦争を操れる人間なんて限られる。順当に考えればハンスか教皇かだ。ハンスがそうなのか? でも動機がわからない。教皇はそもそも名前を知らない。
真実に辿り着くには当たり前の考えじゃだめなのか? だって身近な人の方が名前を知っている。それにこの戦争を利用している人間? 利用するってなんのことだ?
ああもう全然わかんない。
「クルスさん。家族に偉い方とかいます? 親戚とかにも?」
「……おぉっ。なんか結婚への下調べが真っ直ぐだね」
彼は咳払いをする。
「俺は普通の貧乏騎士の息子だよ。親戚に偉い人間か……。いないなー。強いていうならトム叔父さんかな。ベリューブックの野菜市場を牛耳っている」
教会の高位聖職者の縁者ならあるいはと思ったが。
私はまた彼の瞳を見つめる。
「な、なに。今日はどうしたの? そんなに見つめられると……」
彼は照れくさそうに頬をかく。
お気楽なクルスさん。変な事ばかり言う人。本当は優しい人。
だけど彼も嘘が上手な人だ。
誰が本当の敵かまだ断定できない。材料が少なすぎるんだ。
だから私もまだ誰を信用していいかわからない。
私は踵をかえす。黒いローブが揺れた。




