第百八十話
「次は眼だな」
そう彼はヴァルディングスの眼に剣を突き立てる。
聴いてるこちらまで胸が痛くなる咆哮だった。
「おお。思った通り柔らけえじゃん」
そう彼はけらけらと笑いながら剣を抜く。
どろっとした液体がその剣に纏わりついていた。
「なんか意外と弱いんだなあ。竜って」
もう一つの眼も簡単に潰される。
ヴァルディングスの光が完全に失われてしまった。
その心の痛みが私の胸にも伝わってくる。
止めろと叫ぶのを何度抑えただろう。
口に手を当てながら泣く。
ひどすぎる。
後はもう黒騎士による一方的な殺戮行為だった。
時間をかけてゆっくりと竜は解体されていく。
兵士達の中にも眼を背ける者がいた。
もうヴァルディングスは息絶え絶えだった。
血塗れになりながら銀髪の剣士は高笑いする。
「これで俺も『竜殺し』の黒騎士だぜえ」
そう舌を出して口元の血を拭う。
そう彼は戦闘不能になった竜を満足そうに眺める。
「その肉屑を片付けとけ。食っても良いぞ」
そう彼は冗談みたいな調子で言って踵を返した。
戦った相手に尊厳すら残さない戦い方。
許せない。怒りが爆発しそうだ。
でも今はヴァルディングスだ。
「ヴァルディングス!」
私は竜の頭に駆け寄る。顎を抱き寄せるとローブが血に塗れたのがわかった。
『いつかの魔法使いか……』
そう竜は荒い呼吸で応えてくれた。
『ハンスは無事か? 逃げれたか?』
「うん逃げれたよ。ヴァルディングスがいたからだよ。私達じゃ捕まえられなかったよ」
そう立場を忘れて涙を流し竜に寄り添ってしまう。
『そうか。それは良かった』
竜が笑った気がした。
もう繋がってる足の方が少ないヴァルディングス。
その姿を見ると涙が止まらなかった。
『泣いてくれるのか魔法使い』
「当たり前だよ。誰かのためにこんなに頑張ったんだから。涙ぐらい……」
言葉に詰まる。
「流させてよ」
そう唇を噛んで泣く。
『誰かのために泣けるなんて……。人間は素晴らしいな。竜には出来ないことだ。ありがとう心の優しい魔法使い。最後に傍にいてくれたのがお前で本当に良かった』
竜は荒い息をする。
『お前ならきっと真実に辿り着ける。この戦争を利用する悪を見つけ出せ。影でこの戦争を操る悪を。それがお前が倒すべき本当の敵だ』
私はその言葉を繰り返す。
「……本当の敵?」
竜の瞳が動いた。
「お前はその者の名を知っている」
その言葉に胸が震えた。




